第五百六十一話 取り巻き
十八領区の道を奥へ奥へと進み、領主の館辺りまでたどり着く。
サーカス団の一行が向かう経路に関しては、安全な道であればどのような道でも
よいと、それぞれの門所には通達してあるようだ。だが、各領主には、軽く触れている
だけのようで、領主館前のトループにいぶかしんだ目で見られ、行く手を塞がれる。
しかもこいつは……。
「おいおい。こいつらサーカス団じゃないか? 随分と愉快な恰好してるな」
「特にこっちの大鎧は傑作だな。中身はでかいおっさんだろう?」
「俺っちたち、先を急ぎたいじゃん。通して欲しいじゃん」
「ああん? 俺たちに逆らうってのか?」
「上等だなぁ、おい。この国ででかい態度を取ったらどうなるか、わからせてやろう」
「よさんか! エルゲン、バトリ!」
「……なんだよ。戻ってたのかよ親父」
「息子たちが失礼した。まだ貴族身分ではないにもかかわらず、血の気が多くてな」
やはり二人のうち一人はコーネリウスの取り巻き。
メナスの兄弟なのか? 全く似ていないようだが。
それに……親の飼い犬とは呼べない。後ろで親をバカにしている態度だ。
「いいえ、滅相もありません。それよりも風の噂で、こちらにメナス様がお戻りになられたという
噂が入っているのですが、どちらにいらっしゃるのでしょう?」
「ほう。ようやく我が娘として紹介できる印を持ったあやつの噂、もう耳に入っているのか」
「どういうことです?」
「従属のピアスを耳に着けて戻ってきたのだ。己が主と見定めた物への忠誠の誓いを立て
身に着ける事で、生涯そのものと共にある誓いの印だ。あれはコーネリウス殿の所持品に相違ない。
彼に従属を誓い、取り付けたのだろう。これでエルゲン共々可愛がってもらえるに違いない」
……よくない事を聞いた気がする。あの時誓いを立てたのは俺にだ。
今はそれどころではない。話を合わせなければ。
「え、ええ。それでですね、あの方が無くした仮面を届けられたら渡して欲しいと。
こちらを直接お渡ししたいのですが」
「いいだろう。醜くて直接見るのに嫌気がさしていたところだが、無くした仮面以外は
つけぬと強情でな。さっさとコーネリウス殿の護衛につけてやろうと思っていたところだ」
「……そうですか。コーネリウス殿が今どちらにいるかもご存知ですか?」
「さぁな。どうせ遊び惚けておるのだろう。バンドール伯爵も苦労していよう。
おいエルゲン。この人をメナスの許へ案内してやれ」
「へーい。わかりましたよ」
「道だけ教えていただければ大丈夫です」
「おいおい。この俺が案内してやろうって言うんだ。まさか断るつもりじゃないだろうな」
「……いいえ、決してそのようなつもりはありません」
「そうだろそうだろ。ほらいくぞ。さっさとこい。お前一人だけだぞ」
皆、俺を見てはいるが、心配そうにはしない。俺自信もまるで心配していない。
ビーも心配しているわけじゃない。
ただ拳を握りしめ、ここまで一緒にいたメナスをバカにされた事が悔しくて、ぐっとこらえていた。
ビーの肩に手をあて、頷く。
「いってくる」
俺自身はこの光景をおかしいとは思わないし、冷静だった。
貴族の本来あるべき形。ここはまさに、貴族のそれだと感じたからだ。