第五百五十三話 四人の伯爵
揺れる馬車の中、ビーもまた物思いにふけっていた。
その間にシーは、レッジに色々と聞いてみることにした。
「なぁレッジ。伯爵について、詳しく知りたいんだが……」
「オズワル伯爵についてか?」
「いや、すべての伯爵についてだ。どの人物とも面識がなくて」
「そりゃそうだろう。俺も全員とは会った事がない。オズワル様とブルスタン伯爵だけだ」
「あら、兄さんはそうなのね。私は全員、見た事があるわ」
「レッツェル、詳しく教えてくれないか?」
「そうね……ここだけの秘密にしておいてね。ドージ・カグワイヤ・ブルスタン伯爵は
一言で言うなら嫌なやつね。最低の領主よ。二十一領区を統治しているわ」
ブルスタンの名前を聞いて飛び上がるビー。もしかして、知り合いなのか?
だが再び物思いにふけってしまった。
「次にラウド・フィン・シュタイン伯爵。この方とはお話した事がないわ。悪い噂も聞いた事がない。
つまり……よくわからないのよ。二十二領区を統治しているわね」
確かに聞いたことがないし、二十二領区なら関わる事も無いだろう。
「次にいくわよ。二十三領区を統治しているエルエレン・シュトラ・バンドール伯爵。ぱっとしない人物ね。
ただ、魔力と財力は大したものみたいね。多くの女性が息子のコーネリウス様に求婚しているの。
色よい返事は一つも無いみたいだけど」
それはそうだろう。コーネリウスは女だ。ただ完全に男として振舞っている。
彼女自身、完璧主義であるのだろう。
話を聞く限り、コーネリウスの父は能力が高くない人物のようだ。苦労しているんだろうな。
「最後に……ヘンブレン・ジョウイ・オズワル伯爵。あの方が亡くなられたなんて、正直いまだに
信じられないの。殺して死ぬような人ではないはず。それくらいに強い人よ……いいえ、人とは呼べないわね」
「英雄と聞いていたが?」
「ええ。たった一人で一つの国を平定したわ」
オズワルの話に戻ると、ビーも興味を示しだす。
ビー自信も好きな人物だったのかもしれない。
「それだけじゃないぜ。外交にしろ、教育にしろ、戦術にしろ全てにおいて、この国に
オズワル以上の才覚無しとまで言われる。どれほどの嫉妬や妬みを受けたかわかったもんじゃない」
「人の感情で最も恐ろしく、醜い感情……か。つまり嫉妬で殺された可能性が?」
「ないわね。さっきも言った通り、殺して死ぬような人ではないわ。強すぎてね。
暗殺も何度されそうになったかわからないわ。傷一つつけられていないけど」
「他国からすれば目障りな存在……か」
「自国にとっても目の上のたんぶだろう。王族よりも強い存在が伯爵なんだからな」
「王より強い?」
「そういうことだ。だから未だに信じられない。オズワル伯爵が死んだということを……」
静まり返る馬車。レッジが咳ばらいをして告げる。
「レッツェル。お前も病み上がりで、本来はまだ動いていい状態じゃないんだ。少し休め」
「わかったわ、兄さん。そうする。ごめんなさいね、二人とも」
「いや、俺たちはいい。それよりレッジ、今どのあたりだ?」
「もうじき一領区だ。特別何もおこらなくてよかったよ。手筈では下町で首になる予定だ」
「そうか……すまない気持ちでいっぱいだが、助かる」
「何言ってるんだ。ブシアノフ男爵だってどうなるのかわからない。あのままトループをやり続けることは
難しかっただろう。それに妹たっての願いだ。もう二度と、こいつ一人に苦しい思いはさせたりしないさ」
「すー……すー……」
「疲れてたんだろう。無理をさせてしまったかな……」
寝息をたてるレッツェルは少し幸せそうに見えた。
……下町に戻れたら一度、ファニーたちと落ち合わなければならない。
あまりにも急激な展開で、下町へ戻って来ることになるとは思わなかった。