第五百五十一話 シーとベルアーリ
本日から第四部第二章です。
この賞でついに国の名前などが明かされていく予定です。
ククク……楽しかったなぁ。あいつらも変わってない。
実にいい感じだ。また戦いてぇな。強ええやつとよ……。
……お前のせいだ。
はっ? 何言ってんだ主よぅ。お前が雑魚過ぎるせいに決まってるだろ?
……他にも力はあった。
自分の力も制御出来ないカスが、他にも力がある? おいおい冗談きついぜ。
神に目をつけられないようにしておいてやっただけ、ありがたく思って欲しいくらいだ。
魔なんて、行使しなくても俺には……神魔解放だって、真化だってある。
お前、わかってないな。それは全部魔の力だぜ。それによ……もっとわかってない事がある。
お前は俺で、俺はお前だ。恨むなら、タルタロスでも恨むんだな。
タル……タロスだと?
クククク……ハーッハッハッハッハ! ソロモンを再び蘇らせたのはあいつに違いねぇ!
傑作だぜ、こりゃよ。おいよかったなぁ。お前の探し物だってよ、見つけずに
すんじまうかもな? ハーッハッハッハッハッハ!
よく喋るやつだ……だがお前に操られる気は二度とない。
俺の大切な者を誰一人、傷つけさせたりはしない。
おいおい、言ったろ? お前は俺だ。お前にとって大切な者ってやつは俺にとっても
大切な者だ。アルカイオス幻魔? そんなレアモノ、誰にだって渡したりするかよ。
俺もお前も無価値な者同士。だから多くの者を取り込むんだ。そうしなければ俺たちは
生きていけねぇ存在だ。暫くは出てこれねーが、いいか。忘れるんじゃないぜ。
「き……えろ」
「シー、シー! 気が付いたか。まったく、死んでるかと思ったぜ。心配させやがって」
「……ビー。ここ、どこだ? 俺は……」
「牢屋だよ。再びな。どうやら俺たちは牢屋に縁があるみたいだぜ」
「お前……俺の事、見てたんだろ? ……怖く、ないのか?」
「ん? 怖いよ。当たり前だろ? あんなバカでかい力みたら」
「そう……だよな」
「でも、お前はお前だろ? あれくらいやってのけそうだって、そう思っていたさ。
恐怖は正直だ。逆らえるものじゃない。だけどな。優しさもまた正直だ。俺はお前の両方を
知ってる。メナスも、お前の奥さんも一緒だ。そうだろ?」
「ビー……」
「だからさ、俺はお前から逃げたりしない。それにだ……もう、仲間は失いたくないんだ……」
「え……?」
「何でもねえ。さて、どうしたもんかな。ここ」
「メナスとジェイクは、どうした?」
「ジェイクは捕縛される前にうまく逃げだしたよ。メナスは貴族である事がばれて
護衛で固められ、親御さんの許へ強制送還。物凄い反抗してたけど、止めておいた。
シーの前を維持でも離れぬぞ! と刀まで抜き出す始末だったからな」
「そうか……!? あれ、おかしい。いない……」
「奥さんと白い生物のことかい?」
「ばれてたのか……」
「隠し事は今後もっと少なくしようぜ、相棒。少々危険だと思ったが、奥さんたちは二十領区へ
向かった。何があったか、順を追って説明してやる」
ビーの話を聞き、状況が非常によくない事を知る。
オズワルが死んだ事、その後急ぎ戻ったが、男爵がふさぎ込んでしまった事。
そして、信用ならなくなったビーたちまで牢屋へ入れられた事。
「ここで捕まっていてもしょうがない。それに男爵とオズワル伯爵は相当深い関係だったの
だろう。立ち直るのに一体どれだけ時間がかかるか」
「脱出か……これで二度目だな」
「ははっ。そうだな。今回は厳しいぜ。何せ俺の武器も取り上げられちまった。
丸裸にされたわけじゃないから、少しだけ武器はあるけど」
「俺はさ。こういう時のために基本、自分の能力の説明はしないんだ。
でもな、ビー。お前は別だ。本名は理由があって明かせない。それ以外の事は、話すよ」
俺はこれまでの経緯をビーに話して聞かせた。驚いてはいたが、それにもまして
帰って来た言葉に驚いた。
「お前の中で暮らしてみるのも、面白そうだな。あの状態になっても、殺されずにすみそうだし」
「何言ってるんだ、ちゃんと聞いてただろ? 俺が死ねば、消滅するんだぞ?」
「それも悪くない。もう仲間の死を見ないで済む。そっちの方が俺には……辛いんだよ」
「それでもだめだ。お前、戻ったら告白するんだろ? このまま脱出して戻ったって……」
「ばかやろう! そんな事出来るわけないだろ! いいか、よく聞け。確かにあの子は好きだ。
このまま逃げて帰れば、どこかに隠れて幸せに暮らす事だって出来るかもしれない。
それで俺は笑っていられるのか? 好きな人の前で、ずっと泣いていればいいのか?
情けない自分をさらけ出して生きればいいのか? 違うだろ!? それはもう、死んでいるのと
同じじゃないか!」
「っ! すまない。俺と関わらなければ、ビーはもっと幸せに生きれたんじゃないかって、そう
思ったんだ」
「もしあの日……お前が遅れてパレードに参加しなければ、俺はくだらない日常を、管を巻きながら
生きてきたかもしれない。お前のお陰で変われたんだ。だからこそ、最後まで一緒に行かせろ!」
「こちらから、お願いしたいくらいだよ。ただ……お前を俺に封印するのは無しだ。
もし命に関わる危機が来たら、その時は考える。それじゃだめか?」
「わかったよ。それでいい。それで、どうやって出るんだ? 能力ってのは聞いても
いまいちピンとこなくてな」
「例えば武器なら……剣戒」
「それ、やっぱ突然出てたように見えたけど、いきなり出てくるんだな」
「もう一本。封剣」
「こっちもか。手から突き破って出てきたように見えるんだけど」
「どっちもアーティファクトなんだよ。それもやばいクラスの」
「そりゃそうだろう。見たらわかる」
「後は……妖氷造形術、ブラックイーグル」
「それは、パレードの時に装備していた武器だな。よくできてるなー」
「長くはもたないが、かなり耐久値も上がった。弾はいくつかこめれるようになったばかりだ」
「これ、武器取り上げても意味ないな。びびって牢屋に入れられても不思議じゃないぜ」
「それは俺じゃなくてベリアルの方だろ?」
「あれ、ベリアルって形態なのか」
「もともとはベルアーリっていう名前だったらしい。妖魔での俺の本名は多分
捨て名だから問題ないだろう」
「ベルアーリか。ツインより格好いいんじゃね?」
「ツインってのは俺の仲間がつけてくれたあだ名だよ」
「そっか。大切な仲間なんだな」
「ああ……そいつを、救いたいんだ」
「お前の仲間なら、俺の仲間も同然だ。さ、行こうぜ! ……そうだな、ベルアーリ!」
「ああ!」