第五百四十五話 迫りくる前に
身をひるがえした俺は、急ぎ東よりで戦っているベニーの許へ向かう。
そちらも激戦。フォアが焼き落としたものをフォルフとフォッシュが追撃している。
この招来術で呼び出したものたちは、毒が効かないようで、攻撃を受けても怯む様子はない。
戦闘能力もそこそこ高く、連携を取るため対峙すれば十分に厄介な相手。
ベニーはター君が攻撃を引き受けつつ、氷塊のツララで援護。ベニーは海水を全身に纏いながら
うまく立ち回っている。
「ベニー! 一度後退する。東からドラゴンの群れ、それに山道からもモンスターが来る。
このままじゃ挟まれてじり貧だ! 嫌な予感がするんだ……一度封印に戻ってくれ」
「わかったっしょ。こっちはかなり片付いた。あのビーって人、凄すぎるっしょ」
「頼りになるやつがいて本当によかったよ。とはいっても状況は最悪。一体いつ王女に
会えるやら……」
パァンとベニーに背中を叩かれる。
……やっぱりこういう時、ベニーは心の支えになるな。
「何言ってるっしょ。大丈夫。ツインなら……ううん、皆の力を合わせればきっと
また……」
「そうだな、話してる時間はないようだ。レドッピーたちが抑えてくれている間に急ごう!」
ベニーをアデリーに乗せたところで封印に戻し、アデリーを別方面へ移動させる。
自分はコウテイに乗ると、一気に馬車の方面まで戻る。
さすがに男爵側の方も心配になったのか、護衛がこちらの馬車を取り囲んで守っていた。
「あの上空のものは、一体何ぞ?」
「わからない。黄色の竜種が複数見えた」
「あれは、黄竜シェンブレンの群れだ。おかしい、なぜこんなところに」
「おい君たち! 大丈夫か? 男爵も取り急ぎ伯爵へ連絡をしようとしているのだが、連絡がつかないようだ」
「困りましたね。上空からの竜種以外に、山道からモンスターの大群が迫ってます」
「そちらは我々も対応しよう! 安心したまえ。地上のモンスターなら魔術が
無くとも十分戦える」
「俺の術でしばらくは食い止めています。だがもうもたない!」
「おい、ツイン。あの竜種の一番手前。あれ……背中に乗ってるのって」
「……女の子? 冗談だろう?」
「あれは、王女殿下? ミレーユ王女殿下ではないか?」
これは、かなりまずい展開だ。幽閉されていると聞いた王女が、竜にのりこちらへ
やってくる? 一体どうなってるんだ、これは。
「あれ、味方だと思うか?」
「わからない……が、本物の王女ならあれくらいやってのけて当然だ」
「だがつじつまが合わない。一体どうなって……いや、確かめてみるしかない。
どちらにしろこちらへ敵意を向けられてはいないようだ。ターゲットには反応がない」
「あの距離からじゃ、こちらはアリにしか見えないだろう。それより、地上のモンスター
をどうにかするのが先だ。今度は俺も前線に行く。
五人で戦おうぜ」
「いいじゃん。俺っちもそろそろ飽きてきたとこじゃん。やってやるじゃんよ」
「あの竜、滑空してるな。様子を見てるってとこか。王女様は随分とお優しくないようで」
「俺が先陣を取る。男爵の護衛は三人、最低でも残してください!」
「そういや奥さんはどうしたんだ? 見当たらないが」
「怪我をしたから帰宅させたんだ。一応……な」
「そうか。その方がいいかもな。俺も無事帰ったら……いや、やめておこう」
「その方がいい。そういうのは帰ってから考えよう。それよりビー。地上から来るモンスター。
どんなやつか見えるか?」
「ああ。あれは山岳によくいるキマイラロード、それと強力な魔術を使うジェノスコーピオだな。
他にも複数いるが、気を付けるべきはそいつらだ。あれ? 何かちっこいのが戦ってるな」
「レドッピーたちか。もう戻す。あいつら本当に強いな」
この時間までずっと戦ってくれた事に感謝をしつつ、術を解除した。
これまで何度も助けられた。自分の術とはいえ、感謝している。
「なぁシー。お前のその力、どこで……」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや。やっぱり俺、トループには向いてないわ。ははっ」
「それより弾はまだあるか? 準備が整ったら合図してくれ」
「いつでも」
「いいじゃん」
「よいぞ」
「先行する! コウテイ! 頼む!」
コウテイを先頭に、次いで馬車も走り出す。
地上のモンスターを一掃するため、俺たちは再び戦場へ。