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第五百四十話 死のふちか、生のふちか

 小屋の扉を開ける前に、伝染病の場合感染しているリスクなどを伝える。

 だが二人とも、それならとっくに感染しているから問題ないと言われた。

 どちらも止めたところで全く聞きはしない。

 発症の引き金が魔術なら、それを理解していれば進行を極端に遅く出来るだろうし、強い

魔力を持たなければ、魔術無しで一か月後に治癒できる。


 ならば心を優先させよう。

 ノックをしても返事はない。定期的にうめき声は聞こえる。


「開けますよ」

「来ないで! これは絶対伝染病よ!」

「知ってます。対処方法を持ってきました」

「無理よ。嫌……開けたらみんなに、みんなに迷惑が!」

「落ち着いてください。あなたを……救える可能性があるはずなんです」

「ああ……いや。いや。私だけ死ねば、他のみんなは……」

「人一人で解決する伝染病など、ほぼ無いに等しい。あなただけが苦しむ。

そんな事、あってはならないことです。どうか先に症状だけでも見せてくれませんか。

恐らく私には抗体がある」

「……本当に? あなた一人だけなら……あぁ! 頭が割れる! 痛い!」

「レッツェル! 大丈夫か! レッツェル!」

「その声、ブシアノフ様!? 来ちゃダメ! 絶対に来ちゃダメ!」

「……私はな、レッツェル。お前や、他の病に倒れている者の顔、誰一人欠けても

嫌なのだ。もしそのままお前が死んでみろ。私はずっと苦悩し続けて生きねばならん。

私にそんな生活をさせるつもりか?」

「ブシアノフ様……ううっ……」

「レッツェル。もう開けるぞ。例え伝染病をお前からもらったとしても、俺や男爵は

何とも思わない。そういう方だというのはよくわかっているだろう」


 その言葉を聞いて、ぎぃと小さく扉が開いた。

 そこから覗く手はやつれ、髪はぼさぼさで、少し異臭もする。

 これでは別の病気になってしまう。よほど、外へ出るのが嫌だったのだろう。

 目は充血し、頬はこけ、まともに歩けないためか、杖もついている。


「広間にいるベニーに水を持たせて直ぐもってきてもらわないと。

それと綺麗な布も」

「私が行こう。君の妻にやらせるわけにはいかない。私の部下を」

「いけません。あの中で確実に抗体を持たせたのは私の仲間で五人のうち四人だけなんです。

それ以外の者にはリスクがあるでしょう?」

「わかった……レッツェルを安心させるために、か」

「はい。レッジは彼女を安心させるために、手を握ってやってください。

レッツェルさん。扉を開けてくれてありがとう。いいですか。魔力を抑えてください。

微塵たりとも漏らさず。ベッドへ横になって。直ぐに綺麗な水で薬を飲んでもらいます。

それと部屋の掃除、そして着替えを」

「レッツェル。すまない。もっと早くお前の許に……」

「うあぁああ! 頭が、頭がぁ! うう……お兄ちゃん、私もうだめなのかな」

「バカ言うな! 大丈夫だ。なあ、あんた。そこの水で飲んじゃだめか?」

「ダメだ。恐らく相当免疫力が落ちてる。そのうえこんな汚い部屋にいたら

それこそ別の病気になりかねない。弱った体で最もよくないのが常在菌だ。

下手すればそちらで発熱・頭痛を引き起こしてる可能性があるんだぞ!」

「あんたも、医者だったのか」

「違う。俺の育った国は民一人一人がそれなりの知識を持つ賢い国だった。

だからこそ、状況によって人がどういう行動を取ったら良くないのかを知る術があった。

それが学問を本来必要とする目的なんだ」

「そう……か。そうだよな。俺にもっと知識があれば……妹をこんな苦しませずに済んだんだ! 

くそっ……くそ! 俺のせいじゃないか」

「違う。お前のせいじゃない。どこの星でも、どこの国でも、不幸な者はいる。

それは巡り合わせだ。この薬が効いてくれと、一緒に願おう。俺は診断を下せる能力がない。

それも、お前と同じ悔いるべきところだ。だが……見てみろ。お前の妹」


 兄に手をしっかり繋がれた妹のレッツェル。

 スースーと寝息を立てて眠りに着いていた。

 ずっと不安で眠れずにいたのだろう。

 そのレッツェルを起こさぬよう、レッジはシーに背を向け、泣いていた。

紫電も沢山励まされた事、今でも記憶しています。

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