第五百三十七話 ベニーの思い切りの良さ
西寄りに展開したビーたちは、こちらを伺っているであろう五人の方へ向かい始める。
ビーの武器は特殊な射撃武器と銃。
射撃武器は弓に近いが、シーでもどのように射出しているかは不明だった。
銃は光沢のある黒であり、銀色の富士着な文字が描かれ、銃身は長く、手入れが
行き届いている。
雰囲気などを見て、ベニーはとても疑問に感じていた。
「あんた、やっぱりツインによくにてるっしょ」
「……そうか? 俺なんかよりずっと頼りになるだろ?」
「ほら、そういうところとか。そっくりっしょ」
「さあな。シーは始めたようだ。こちらもやろう。
数は五。慎重に……]
「一気に行くっしょ! とりゃーーー!」
「ええっ!? ちょ、待って!」
一直線に踊り出るベニー。大慌てで後を追うビーだが、一向に追いつけない。
彼女が走る地面は全て水たまりのような後ができていた。
「上から来る! 射撃に備えろ! 左右に短剣持ちがニ! 挟まれたらやられるぞ!」
「言われなくてもわかってるっしょ。アクアドルフィン散弾!」
上空へ向けて矢を放った方角に、大きなイルカを模した水の塊が跳ね上がる。
放たれた矢はトポンと水の中に入るが、突き抜けることなくイルカ水に飲み込まれて
そのまま放った本人の方角へ飛んでいく。
「く、ただの水じゃない! これは海水か!?」
「気をつけろ。射撃精度が高いやつがいる! 武器を弾かれた!」
「なんだと、ここからか!? あ……」
両者ともにイルカ水に気を取られている間に、後者から迫るビーの射撃へ対処が遅れた。
その影響で武器を弾かれ、地面へと落とす。迫り来るイルカ水を回避しようとしたところで
ベニーの強烈な拳が木を打ち抜く。
「おっとそこまでだお嬢さん。左右からの挟み撃ちには気付かなかったかい?」
「上はあくまで狙撃させて囮。こちらが本命なのよ」
「? 気づいていたっしょ。そのまま刺してみていいよ」
「はぁ? 何言ってんだ。危ないじゃすまな……」
「手が……動かない」
「地を走るミニマーメイド。旦那と同じく海水の使い手。ベニーちゃん最高っしょ!」
木を拳打したベニーに迫っていた二人の短剣使いを、小型の人魚が足元から海水で縛り上げる捕縄の
ようなものを二人の腕に絡ませていた。
木を拳打せず、一度停止してビーに任せてもよかったのだが、ベニーは久しぶりの
闘いに熱狂していた。
「やっぱ楽しいっしょ。もっと強い相手はいないの?」
「気をつけろ。もう一いるはずだ。恐らく一番射撃の腕が立つ、後衛備えだ。
身を隠すのが実にうまい」
「あんたでもわからないっしょ?」
「そのミニマーメイドとやらで探せないか? それ、招来術か何かだろう?」
「違うっしょ。これ、アーティファクトっしょ。あ、言っちゃいけないんだった」
「はぁ? いやいや……聞かなかったことにしよう……」
ひらりとした腰布を指しながらそう伝えるベニー。
アーティファクトは地上にゴロゴロ転がっているものではなく、極めて有用で便利な代物。
酒場で働くような娘が所持しているものではない。
「ミニマーメイドたちじゃ調べられないっしょ。ツインみたいに便利な事はできないの」
「……えーと、シーもそういった便利な道具を持ってるって意味か?」
「あ、言っちゃいけないやつだったっしょ。もう口塞ぐね!」
「色々気になるが、ここで聞けないのがトループの悲しい嵯峨だな」
と、話しているところで放物線を描きながら土色の矢が飛んでくる。
すかさずベニーの前に出て、矢を弾丸で撃ち落とすビー。
飛んできた矢は全部で七矢。
とてつもない速さで矢を射出している。
「相当な実力者だ。しかもただの矢じゃない。マジックアローだ。
遠目に撃ち落とさなければ暗闇効果をくらっていただろう」
「危ないっしょ。危うく素手で破壊するところだったっしょ」
「普通、矢は素手ではたかないけどな。今の攻撃で方角と位置を割り出した。ここからは俺がやる」
飛んできた方角に照準を合わせる。距離はそう遠くはない。放物線の角度から見て
射程圏内。
そう判断したビーは、射撃武器を構えると、何かを射出した。
それはまるでレーザービームのように真っすぐ飛んでいき、草の中を貫く。
「上! 矢飛んできてるっしょ」
「これでいい。そこだ」
「え?」
何もない方角へ銃口を向けるビー。そのまま発射すると、弾丸の放った先で轟音が鳴り響く。
「うわぁーーー!」
上空を飛翔する矢は先ほど放った射出武器の弾が跳ね返り、矢を全て撃ち落とした。
「構えた時点で移動したら、音が聞こえるぜ。動かずやり過ごす方法を考えるべきだったな」
「だから、どんな耳してるっしょ!」
久しぶりに出てきたベニー(ベルディア)さんのご活躍シーンです。
人魚族とオーガ族のハーフという他作品で見かけない変わったキャラですね。