第五百三十話 ルートエー、ルートビー
翌早朝。全員支度を整え、出発の準備にかかる。
エーチーム。
エー、レニー、スピア、そしてアネスタ。
レニーの案内で二十三領区へ向かう予定。
余談だが、アネさんはアニーと名乗りたかったらしいが兄になってほしくないとの要望でアネさんのままだ。
そしてビーチーム。
こちらはビーを始めシー、ベニー、メナス。三十領区へのルートを知るのはメナスだけだ。
予定として一番安全らしい一領区から向かい、十二領区へ。そこから二十領区を得て三十領区へ入る。
しかし普通に入れるのは一領区まで。そこから先は、手段を講じる必要がある。
アネさんがいるとはいえ、あちら側で不安なのはスピアだろう。少なくともアネさんの言う事はよく聞いてくれる。
だがレニーとの相性はあまりよくない。とはいえスピアを連絡役に残す方が不安だし、先生が連れて行かれたとなった以上、止めるのは無理だ。
あいつにとって今や、先生は尊敬に足る存在。神にも等しいだろう。
それほどまでに有能な人物。先生に何かあるようなら、すべてをなげうってでも助けにいくつもりだ。
しかし……人手が足りない。後であちらとも合流できるといいんだが。
「段取りは話した通りだ。皆、いいな?」
『ちっともよくないわよ! 何で留守番なの!』
見事にはもって応答したのはファニーとサニー。そりゃそうか。
怒って当然だ。
「二人なら、ブネをしっかり守れると思ったからだ」
「だったらベニーだってしっかり守れるじゃない」
「そうよ! レニーだって守れるでしょ!」
「俺が最も信用しているのが誰か、考えてみろ」
『えっ?』
「お前たちだから頼めるんだ」
「しょ、しょうがないわね。ふ、ふーん。そうよね。ツインが最も信用してるのは私よね」
「一番長い付き合いなんだもの。それもそうね。わかったわ。任せておいて!」
「それに、こいつを放っておくわけにもいかないしな……」
「きゅう……」
「可愛すぎるこの子は、私がしっかりみておくね!」
九領区で連れてきたアイリス。こちらを二人に預けておく。
特にファニーは可愛い動物好きなので、安心して任せられる。
一連のやり取りを見て、ビーが目を丸くする。
俺は本心で言っているのだが、周りからはうまいこと言った! と思われるだろう。
だが、現に仲間で古株なのはこの二人だ。ベニーも勿論他者とのコミュニケーション能力に長ける。
それでもやはり、ファニーのさりげない優しさや、サニーの一直線な思いは、こういう時に頼りとなる。
「人数は大分少ない。けど、うまく乗り切ろう」
「まま、任せるであります! 頑張るであります!」
「ふふっ。頼りにしてるよ、リーダー」
「かかか、かんばるですあります! いざ直進でありまーす!」
「待てって。槍忘れてるぞ」
「ななな、なんの事でありますか? 槍ならここに! あれ、あれ」
「君は大胆だね。それは私の腕だよ」
「ぎゃはー!」
ばたんと倒れるエー。こりゃ前途多難だな。
だがそんなさ中でも、一人真剣な顔のビー。こっちは違う意味でやばいな。
どんな話をしたのかなんて、聞くほど野暮じゃない。
だが固い約束をいたに違いない。
そう、あれはmるで――――俺が妖魔国で、メルザに会いに行くと決めた時のような、そんな雰囲気だ。
「俺たちは先に行く。エーが目覚めたら、そっちも頼むよ、レニー、アネさん」
「任せてっ。そっちもよろしくねー!」
「うん。この子結構面白いね。先生を救出したら、あれで位置を確認して向かうから」
「……ああ。頼むよ。頼りにしてる」
「ふふっ。君は相変わらず素直だね。新しい造形術は、いざという時に……ね」
「それも、承知しているつもりだ。なるべくなら使いたくはないんだが」
「よし……行くか! シー!」
「……ああ!」
「うちも気合入るっしょ。久しぶりに一緒に行動できるね」
「あんまり惚気るなよ」
「ないって。ベニーはどちらかというと、突撃タイプだから」
「何か言ったっしょ? しゅっしゅっ」
「いや、何でもない」
「先兵役がこの娘ぞ? 確かに相当腕が立ちそうだ。よしなに頼む」
「任せるっしょ。綺麗な髪のお姉さん。金銀で案外お似合い?」
「ふふふ、元気な娘ぞ。貴様の髪も美しいぞ」
両者ともに美しい髪をなびかせ……ると目立つので、変装してもらった。
貴族街に向かうなら、目立つわけにはいかない。
ここからは極力目立たないでいこう。