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第五百二十九話 夜風に吹かれる二人の男

 その日の晩の事。ビーは思いにふけっていた。フラッと外へ出ると、宿屋の屋上へ登り、屋根から

外を眺める。町は相変わらずの賑わい。飲み歩いた男女がわいわいと叫んでいたり

不思議な恰好をしたものが踊っていた李する。


「ふぅ……」

「大きなため息だな」

「……シーか。気配を殺すなよ」

「らしくない。平常ならとっくに気づいていただろう?」

「らしくない……か。そうかもしれない。らしくない、な」

「よかったら、少し話を聞くよ」

「……ああ。俺が……トループになってからの話だ。

六年も前になる。あの子は、覚えていないかもしれない。

任務で、彼女を保護したのは俺だ。まだ若すぎる兵だった」

「あの子って、酒場にいた子か?」

「そうだ。保護して、信頼できる上官に託した。里親が見つかった後の事はわからなかった。

あの子と再会したのは酒場。でも、声をかけられなかった。凄く可愛い子に

成長していた」

「向こうは助けられたことを覚えていない?」

「そうだろうな。今の俺はあの頃より随分成長したが、階級は落ちてる。

どの面下げてあの時助けたのは俺です、なんていえる?」

「……階級とか、関係あるのか? 助けたのはビーなんだろう? 俺には立派なトループに見える。

それにお前はいい男だ。正直あの子は自分なんかには勿体ない相手と思っているだろう」

「よしてくれ。俺は……俺なんかじゃあの子を幸せには出来ない」

「ビー。それは違う。お前が幸せにするんじゃない。一緒に幸せにするんだろ」

「俺の汚れた手でか!? あの子を、戦場で汚れた俺の手で、抱きしめる事なんか! できない……」

「それでもお前は言ってただろ? 彼女が欲しいなってさ。

いいか、よく聞けビー。生きるため、守るために汚れる手。それは生物であるなら当然の事。

罪と感じるのかもしれない。だが、ただ単純に平和を望んでも手に入るものじゃない。

俺が遠い昔住んでいた地域。そこにはずっと、戦いたくない。誰も傷つけたくないと

願ったものがいた」

「……その人は、どうなった?」

「暗殺されて死んだよ。けどな、そんな誰も傷つけたくないと言っていたその人でも、こう言ったんだ

守るためには戦う必要があると。 真理のために苦しむことを避けるな。 信念を守るために立ち上がり、戦うことを恐れるな……そう言っていたらしい」

「っ! ……ああ。まったくその通りだ。俺は、彼女の目から逃げた。

すまない……すまないシー。ありがとう。俺、行ってくる。まだ、会えるかな」

「行け! いなければ探せ! それがお前らしさだろ? ビー」

「ああ!」

 

 勢いよく宿屋の屋上から飛び降りるビー。やはり、只者ではないな。

 ビーの背中を見送り、夜風を全身で受ける。

 信念……そうだよな。忘れちゃいけないものだ。

 自分の信念、信条を、前世でも忘れかけていた。

 でもそれを常に思い出させてくれたのは、会ったこともない遠い昔の人。

 マハトマ・ガンディー。若い頃は盗みも働き、悪友も多かった彼だが、人は大きく変わる。


 変わりたいと思えば、思うほどに。


「いい若者じゃな。お主とよう似ておる」

「老師……また無茶を」

「よいよい。シフティス大陸の果てにあのような若者がおるとはのう。やはり転移移動は

よくないわい」

「会えたのは偶然……いや、必然なのかもしれない。全て起こりえる事に偶然はなく、それは

必然。めぐり合わせってのはそういうものなんでしょうね」

「うむ……しかし明日は大変な一日になろう。早く休むんじゃぞ。ルンルン」

「最後でぶち壊すのはやめてください、老師!」



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