第五百二十一話 エーの一目ぼれ
自分の名前はアルフォンスであります。現在はマーサル隊長につけられた呼称、エーで呼ばれているであります。
随分と大変な事態になったであります……。
パレードに遅刻してからというもの、散々な目にあってるでありますが、どうにも
楽しくてしょうがないであります。
今まで自分は影が薄い存在でありました。
隊長の部隊は所属人数も少ないでありましたが、変わった奴らと行動を共にするようになったであります。
冷静沈着で目つきが鋭いビー。前線で自分よりたくましく戦う屈強なシー。
二人ともただものじゃないでありますが、自分も隊ではかなり強い方でありました。
少々自信が無くなっているでありますが、偵察任務で負けるわけにはいかないであります!
現在は下町の酒場付近。今日向かう場所でありますから、念入りに調べておく必要があるであります。
ここで貴族が襲われたなんてことになれば、それでこそ大ごとでありますから。
「特に異常なしでありますね……おや? 酒場娘が随分と増えているようであります。
しかも若くて可愛い子だらけでありますね……」
酒場付近の扉から中を覗き見ていたエー。
その後裏手にも回り、異常が無いかを確認し終えると、再び酒場の正面辺りに戻る。
特にきな臭いような事はなさそうで、ほっと胸を撫でおろした時だった。
「それじゃ戻るね。みんな、無茶しないで。心配だから」
「うん、姉さん。ありがとう。今夜は来れないの……?」
「ごめんね。ラートにも連絡しないといけないし、他にもやることがあるから」
そう誰かと話しながら、鮮やかな緑の短めな髪の美しい女性が酒場から出てくる。
カチコチに凍り付くエー。こんな美しい人を見た事が無い。
しかも短めの緑色の髪が彼をひきつけてやまない。
彼は自然が好きで、緑色の美しいものが大好きだった。
だからこそ風景などを覚えるのが得意であり、好きだからこそ覚えられるのだった。
「あのー、何かご用ですか? あのー……?」
「……はっ! こここ、これは! 失礼ですありますですでした!」
ぴゅーんと慌てて逃げるエー。心臓はバクバク。呼吸も出来ない程だった。
「……? 何だったんだろう」
どうやらまったく意識せず、美しい女性の目の前まで行っていたようだ。
自分の顔に手をあてると、やたらと熱く、息切れも激しくふらふらする。
「ま、まずいであります! 自分も発症したに違いないであります! 急いで戻るであります!」
派手に勘違いしたエーは、息せき切って宿屋へ戻る。
先ほどの美しい女性の顔が頭からまったく離れない。
背中にもびっしょり汗をかき、部屋に入る。
するとスピアがいた。
「ん? 何だお前。顔色悪いな」
「……女性を見ても普通であります」
「何言ってんだ? 頭でも強く打ったのか?」
「いえ、自分を思い切り殴ってほしいであります!」
「ん? いいぞ。えい!」
「ぶぎゃふっ……痛いであります! 何するでありますか!」
「お前が殴れって言ったんだろ!」
「そうでありました……自分はいったいどうしたのでありましょう」
「はぁ? さっきから変だぞお前。先生に診てもらうか?」
「そうしてもらった方がいいもしれないであります。発症したのかもしれないであります」
「ただいまー。あら、お客さん? お邪魔かな?」
「あー、姉さん。なんか頭がおかしくなっちゃったやつがいて」
「ふぅーん。私が治療しようか? 先生、忙しいでしょ?」
「あ、ああ……」
姉さんと呼ばれた人物を見て、ひっくり返って気絶してしまうエー。
それは先ほど酒場前で見た、緑髪の美しい女性。アネスタだった。