第五百十八話 夜の遠泣き
その日の夜。皆が寝静まった頃――――。
コォーーン、コォーーーーン。
コォーーン、コォーーーーン。
コォーーン、コォーーーーン。
その音で目覚めたシー。他の二人は客間で寝静まっていた。
エーは自分の槍を大事に抱えたまま寝ている。
ビーは寝息を立てず、静かに寝ていたが、シーの目覚めに少し目を開ける。
だがそのまま見ないように再び目を閉じた。
それを見てぽりぽりと頭をかくシー。やはりビーは特別……かな。
窓の奥を覗き見る。この世界に月あかりはないが、外には明かりがともっており、映し出される
美しいシルエットがあった。
女狐メナス。長身の銀髪をなびかせながら……空に向かい狐のように泣いていた。
「少し、言い過ぎたか」
「……そんなこと、ないぜ。俺には言ってやれなかった。お前にはよほど思うところがあったんだろう」
「けど、強い口調になってしまったからさ」
「それはそうだな。男なら強い衝撃を受けるだろう。だが、女ってのは時に強く言ってやる必要がある。
それが出来るのは男だけだぜ。女同士なら酷い争いになるからな」
「そう、だな。そういう場面、見たことある」
「それにだ。あいつ、泣いてるってより、喜んでいるように聞こえるぜ。
やっと自分を叱咤してくれる相手に会えた。やっと自分は解放される。
そういう声だ」
「はは、責任、重大だな」
「当然だろ? 俺たちの命まで天秤にかかってるんだぜ。頼むよ、相棒」
「ああ……そうだな」
コォーーン、コォーーーーン。
コォーーン、コォーーーーン。
コォーーン、コォーーーーン。
いつまでも鳴り響くその泣き声を聞きながら、二人は再度眠りについた。
――――翌朝。
「シー、起きるであります! そろそろ出発するでありますよ」
「……昨日の話を聞いて、俺たちはここから第七領区に向かう前にやることができた。
下町に用がある。そこへ行く前に口元を布ではおるものを用意してもらいたい。
それとコーネリウスへ話す事がかなりある。
エー、ビー。手分けして協力を頼むことになるが……まずは医者の検査最優先だな」
「ふああ。俺にはよくわからないが、シーが言うなら間違いないだろう。しかし医者ねえ。
下町にそんなのいたかな」
「知り合いだよ。詳しくは……」
「それ以上言わなくていいさ。トループで詮索は無用。さ、行こうぜ。
夜にはコーネリウスと会わなきゃいけないし」
「布を借りてくるであります! 自分、早く第七領区に戻りたいであります……」
「悪いなエー。でも安全のためなんだ」
「そうでありましたね。我慢するであります! マーサル隊長には怒られると思うでありますが……」
「その辺もコーネリウスに頼むとしよう。そもそもコーネリウスに絡まれなければこうはならなかっただろうし」
『確かに!』
意見が一致したところで俺たちは行動を始める。
話をしたところ、メナスもついてくるようだ。
確かにこいつも感染している可能性は十分にある。
下町に着いたら出来る限り人との接触は避け、喋らないようにすることを条件に、共に向かう事となった。
「あー……まずったな。これ、見られたら絶対ファ……ニーたちに言われるな」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、なんでもない。先を急ごう」