第五百十話 銀髪の女狐について
「お前ら!」
「は、はい」
「どうだった? 囚人の方は。あれ? 軍曹!? し、失礼しました! なんか随分と細く
見えたもので」
「気にすんな。囚人は痛めつけて寝かせた。これ以上騒がれても叶わねえ。近づくなと全員に伝えておけ」
「わ、わかりましたー!」
「それより腹が減った。食堂へ案内しろ」
「へ? 軍曹はさっき食べたばかりじゃ……」
「バカ野郎! あれっぽっちで足りるかよ。追加だ追加」
「わかりました! 直ぐに手配をします!」
「おう。秒で持ってこいや」
うまいこと兵士を丸め込むビー。確かに体系が全然違うが演技力でカバーしている。
無数にある部屋の途中、保管庫という名称の場所があった。
エーの槍は没収されているため、ここで回収しておく必要がある。
シーが持つアイアンソードは彼にとってどうでもいい装備だった。
ビーは巧みに武器を隠し、事なきを得ているため問題ない。
保管庫は食堂の隣。これは都合がいい。
「直ぐに調理を開始させます!」
「いや、お前は上の見張りをしてこい」
「ええ!? これから休憩……」
「うん? 何か言ったか?」
「い、いえ! 行ってきます! とほほ……」
連れてきた兵士を見回りに行かせると、食堂の奥にいる店主に話しかける。
「親父、いつものだ」
「へ、へい。軍曹さん今日は沢山食べますね」
「いらつく事があってな。食わなきゃやってられんのだ」
「そうですか。それじゃ急ぎ作るんで、そっちのテーブルの前でお待ちを」
「ああ。急ぎで頼むぜ。三人前だ」
「はい。直ぐ用意できますんで」
「そうだ、その前に一つ聞きたい。お前、女狐様をどう思う?」
「……どうとは? あの方の処遇についてですかい? 美貌についてですかい?」
「そうだな、両方だ」
「処遇については酷いとしか言いようがありませんね。貴族が第九領区で生活ですからねぇ。
美貌についてはそれこそ、第九領区右に出る者なしといったとこでしょうかねぇ」
「……同感だな。いい返事だ。それじゃ料理待ってるぜ」
「お任せください」
そう告げて席へと憑く三人。エーは少しハラハラした様子だった。
「ビーは凄いであります。自分だったらしどろもどろになってしまうでありますよ……」
「知られている人物にあそこまで成り済ますのはいい特技を持ってるな。変身術でもないってのに。
食事にありつけるのはありがたい。この後いつ食えるかわからないし」
「腹が減ってりゃ死に物狂いでやるだろ? それだけだよ」
「そりゃ必死にもなるな。すまない、気づかなくて」
「いいんだ。色々あった一日だったから……そして色々変われそうだよ。シー、お前は不思議な奴だな。
何かこう、頑張らなきゃいけないって気にさせる奴だ」
「自分もそれは感じたであります。ただのトループではない、そう思うでありますよ」
「そんなことはないぞ。ただのトループだよ、うん」
「はいお待たせ。部下の分も気遣うとは。軍曹さん、おまけだよ」
「おう。こいつらは色々貢献してくれてるんでな。それより後は奥で休んでていいぞ」
「本当ですかい? いやー助かる。今日はちょっと疲れてましてね。それじゃこれで」
休んでいいと言われ、小躍りで厨房を後にする店主。よほど疲れていたのだろうか?
一人で回しているように見えるし無理もない。銀髪の女狐は人使いが荒いと見える。
「味は……まぁまぁ美味しくないでありますね」
「食べれるだけましだ。明日には最高の料理が食える。我慢しよう」
「うっ……これでまぁまぁ美味しくないのか? 相当ひどい味だぞ……」
美味しい料理に慣れ過ぎているシーには極度にまずい飯に思えてしまった。
食事を終えた三人は、すぐさま隣の保管庫へと向かった。
――――鍵は軍曹が保有していたもので開き、中には随分と雑多に色々な物が放り込まれている。
「きゅううーー……」
「ん? エー、まだ腹が減ってるのか?」
「自分のお腹の音では無いであります!」