第五百八話 第九領区からの脱出計画
「シー、準備は順調か」
「ああ。抜かりない。エーはどうだ?」
「ばっちりであります!」
俺たちはひそひそ声で話していた。若干エーだけ声が大きい。
現在地は第九領区、牢屋。暗闇の中だ。明かりはなく、光が差し込む隙間も
ほとんどない。
ここは地下だ。俺たちを連れて行くときに経路は多少把握できたが、地下三階……のはずだ。
壁の奥は突き抜けができている。つまりここから先は崖か何かだ。だから空気は通る。
地上からアリの巣状に構築してあるのだろうか?
そのまま壁を破壊して出て行けばいい? いや、そううまくはいかないだろう。
俺だけならまだしも、エーとビーがいる。こいつらを見捨てて一人壁をぶちやぶり逃げるなんて
こと、俺にはできない。コーネリウスとの約束もあるし、これから先、俺がこなすべきミッション
にも十分影響がある。
どうやってこの第九領区地下牢から脱出するかだが、兵士和の把握が重要。
そして、俺が特異能力者であることはばらしたくない。つまり……ルインとしての妖魔の能力や
神魔解放、雪造形術やモンスターなども使用は避けたい。
ルーニーは外であれば使用できるが、建物の中では好ましいと言えず、コウテイやアデリーも
もっての他だ。
迷っていたところ、エーからかなりいい道具を渡された。
リンクという物らしいトループ支給のもの。旧型だが、離れていても連絡がとれるらしい。
ちょうど数は三つ。それぞれに装着して試してみたところ、抜群に聞こえがいい。
つまりこれは相手側のトループも所持しているということ。
つまり、一人にでも見つかればあっという間にこの第九領区全トループに伝わる可能性があるということだ。
「ビー、弾は全部で何発だ?」
「睡眠弾、二十二発、麻痺弾、十二発。気づかれずに脱出する弾はこの二種類だろう。
煙幕弾その他攻撃系の弾は使用しないほうがいい」
「そうだな。大きな音を発する弾はあるか?」
「轟音弾ならある。二発だ。だが役にはたたないだろう?」
「そんなことはない。使用用途によるさ」
「それもそうか。勃発させたように見せる……そんなところか?」
「察しがいいな。その通りだ。つまり最初に使用して、何人の兵士が来るか確かめる。
しばらく時間を稼いで兵士が集まったらそいつらを全員ここで足止めし、脱出を開始するんだ。
つまり二発とも使っていい」
「わかった。それを合図に作戦開始だな。そうするとこっちの弾も併せて使おう。
エー、逃げ道の方向はお前に任せたい」
「勿論であります。俊敏な動きと方向感覚で、お二人を誘導するであります!」
「道中要所要所でトループがいるかもしれない。その時は……」
「声を出される前に倒す」「であります!」
「ふふっ。真っ暗闇でちっとも表情は見えないけど、全員頼もしい。
俺たち案外、息ぴったりなんじゃないか?」
「かもな。目指すは第七領区だが、第八領区は安全に抜けられる……よな?」
「どうでありましょう? 自分は第八領区にかかわった事が無いであります」
「俺もないな。いい噂は聞かない。第七を抜けても用心するに越したことはないだろう。
同じトループだってのに、嫌になるぜ、本当」
「ぼやいても仕方がないな。さぁ……やるぞ! 合図は……」