第四百九十九話 トループ対ノーブルトループ 後半戦 シー対コーネリウス 決着
第四部第一章オープニング部分がここまでとなります。
明日よりまた少し違う話の切り口になると思います。
残り六本の黄金の短剣を投げ放ったコーネリウスは……驚きに目を見張っていた。
最初の二本を掠めたことにより、その時点で勝利を確信していたからだ。
彼の攻撃は一度でもかすれば、多大な負荷を相手に与えられる自信のあるもの。
プラズマを操る事は困難を極めるが、幼少より訓練に訓練を重ね、その制度はゲンドール一と言える程だった。
その彼が、初めて相手に対し敬意と恐怖心を募らせた。
投げ放った黄金の短剣全てを、水のような右手でつかみ内側へ閉じ込めていた。
「金なら錆びないよな。高そうな武器だし……弁償しろとか言われたら、今の俺は
困り果てる。まったくライラロさんは……」
「な……なんなんだその腕は。なぜ重術が発生しない!」
「悪いが種明かししてる暇はないんで……ね! 解放していいのは腕までだったよな。
指は……いいや。頼む、ルーニー! モード紅桜」
「ホロロロローーー!」
シーが剣に何かを呼びかけると、それには美しい紅桜色の羽根が生え、緩急をつけて
コーネリウスへ飛翔する。
真っすぐ突き進み貫くと思いきや、上空でぐるりとアップサイドダウンし、コーネリウスから
見えづらい角度で彼に襲いかかる。
「何だあれは!? 鳥……獣魔か? くっ……このままではまずい! 重圧展開」
「モード、海水ルーニー」
「ファーーーヒーーーーー!」
コーネリウスが重圧を展開しようとした直後、羽根の生えた剣は水の塊となり、コーネリウスへ
降り注いだ! 水にプラズマを放っても、容易に変化は起こせない。
到底予測していなかった出来事に驚き、全身でその水を浴びてしまう。
「モード・炎熱ルーニー」
「ファーヒーーーーー!」
「ぐああああああ! 水が炎に!」
ゴロゴロと転げまわるコーネリウスを見て、さっと手を挙げルーニーを元に戻すシー。
炎は燃え上がらずそのまま鎮火した。
着ていた衣類なども全く燃えてはいない。
だがそれなりのダメージを負ったようだ。
ゆっくりと体を確かめるように起き上がるコーネリウス。
あのまま炎を消す手段がなかったら、どうなっていたことか。
「なんてやつだ。重力技をものともしないうえ、重圧展開まで読み切っていたのか?」
「なにせあんたが初歩の重術しか使わないから。今は使えないって言った方が正しいのかな」
「っ! 一体君は何者だ! 戦いのさなかでなぜそこまでわかる!」
「んー、俺が何者ってより、俺に指導してきた先生たちが何者だよってとこか。
化け物を越える化け物たちに半殺しにされてきた結果だな」
「……つまり自分の力じゃないとでも言いたいのか」
「ああ。現に今戦ったのは俺じゃなくてルーニー。俺の仲間みたいなもんだ。な?」
「ホロロローー」
いつのまにかシーの肩に戻っていたその鳥は、シーに撫でられると目を細め、頭をこすりつけていた。
「そんな生物、見たことも聞いたこともない。貴族の競売にだって見受けられないような生物だ」
「言ったろ。大切な仲間みたいなものだって。道具じゃないんだ」
「……私の、負けだ。完敗だよ。かすり傷一つしか負わせられなかった。
それもまったく効いていないようだ」
「どうかな。あんたが俺を殺すつもりで向かってきていたなら話は別だろう。
傷もこの程度では済まないし、闘技場もろとも破壊するくらいの力量はあるはずだろう?」
「ふっ。この建物は私の父上のもの。そのようなことをすれば勘当される。
約束は約束だ。屋敷と、それ以外に褒美もやる。だが一つ頼みがある」
「いやいや。俺、いらないんだよね。褒美も。早く帰りたいんだけど。
頼みってのも嫌な予感するし」
「ふふふ、欲のないやつだ。別に君にとって不利な頼みってわけじゃない。
それに褒美は受け取ってもらわねば困る。あいつらに示しがつかないだろう?
それこそもらってくれるまで君をしつこく追い回さなければならなくなる」
「それはもっと困るな。はぁ……とりあえず話を聞いてから決めるでいいか?」
ルーニーを手に持ち、腰辺りにその手を持っていくと、ふっと消えた。
戦いを見ていたエーとビーが近づいてきて、勝利を喜びあうのだった。