第四百九十二話 トループの鉄則
目的地へと到着した部隊一行。
二十三闘技場……そこはかなり大きな建物で、入口は封鎖されていた。
どうやって入るのだろうか。入口付近に着くと、隊長が全員に向けて激励する。
「お前ら、わしゃレオルム殿に報告へ呼ばれておる。あまり派手にやりすぎるなよ! 勝利報告を期待しておる!」
「隊長、見ていかないのでありますか?」
「貴族相手だから防戦一方と思ったが、まともにやりあっていいのか?」
「おいおいシー。俺たちトループの鉄則を忘れたんじゃないだろうな」
「戦場には身分も差別も、ルールすらもない。あるのは強さのみ……であります!」
「えーと、そうだったな。それなら多少は応戦してもいいか……」
「しかし相手は伯爵の息子とその取り巻き。実力者であることは間違いない」
「重術を用いてきた。それなりの威力はある」
「秘術持ちか。今のうちに戦術を決めよう。シー、エー。それぞれの得意な事を教えてくれるか?」
「自分は槍術と支援強化術が得意であります!」
「そいつは助かる。支援強化持ちは貴重だ」
「俺は剣術と……水、火、氷……術が一応使える」
「反発属性だと!? お前本当かよ? レアどころの騒ぎじゃないぜ?」
「は、初めて聞いたであります!」
「あー……火はあれだ、あんまり使えなかったような、水術が得意なんだ、うん」
「どちらにしても剣術の腕次第じゃ立ち回りがききやすいな。お前、銃は?」
「それがまだいまいちでな。練習中だよ」
「そうか。俺は銃術に様々な術を封じて放てる奇銃使い。部隊じゃ遠距離特化だった。
適当に組まされたのに近、中、遠距離が揃ってやがる。こいつぁいい。なんか運命めいたものを
感じるぜ」
「ふふっ、懐かしいな……」
「あ、シーがやっと笑ったであります! それじゃ役割と戦法を決めるであります!」
三人はしばし闘技前で話し合うと、戦略を練った。
話し合ってみると、相性が非常にいい事がだんだんとわかる。
シーを除いては興奮した様子でそれぞれの行動パターンを覚えていく。
「これなら貴族相手でもかなり戦えるんじゃないか? まさか二刀流とはな」
「もともとは一刀一拳だったんだが、色々あってな。本来のスタイルは一刀一拳だよ」
「格好いいであります! 自分は槍以外適性がないので、羨ましいであります!」
「いいや、槍ってのは集団戦においてめっぽう強いだろう。俺の場合は一対一以外だと
剣での戦いはやり辛い。剣ってのは最強の武器じゃない。扱いやすさ最強ってだけだ」
「まぁそりゃわかるが、剣以外は獲物を認識されやすいだろ? ……いやいや武器談義してる余裕はなかったな。さすがに兵士三人集まれば、こうなるか。ははっ、この続きは下町の酒場でやろう。
勿論勝利の祝いで、隊長のおごりだ!」
「それはいいであります! 絶対勝つであります!」
「へぇ……まさか闘技場に入る前に、ここでやり合いたいのかな、君たちは」
突如背後から鋭い言葉を浴びせられる。それはまるで重力がのっているかのようだった。
「おい貴様ら。エルエレン・シュトラ・コーネリウス様の前で、随分と余裕な態度だな」
「ふん。こいつら下船の血の者でしょぉー? こーんなの相手にするのーぉ?」
「エルゲン、フィルミナ。そういうな。私たちが強すぎて、誰も相手をしようとしないのだ。
力がありあまっているのだろう? 遠征前の軽い運動だと思え」
「はぁーい。ねぇそれよりコーネリウス様ぁ。勝ったらちゃーんと、ご褒美くださいねぇ」
「おいフェルミナ。そりゃ既にご褒美確定だろ、ずるいぞ」
「えー-、だってぇ。すっごい欲しい宝石があってぇ。ね? いいでしょぉ?」
「……すまないが、そろそろ始めないか?」
「あん? 誰に者言ってるかわかってるのか、お前。怪我させる程度で許してやろうと思ったが……
ギタギタにしてやるぜ」
「……いいだろう。それにエルゲン。そいつを甘く見ない方がいい。私の重力コインを指二つで受けきった奴だ」
「何? こいつが? とてもそうは見えねぇ……何かの間違いじゃありませんか?」
「やればわかることだ。行くぞ。そのコインをかざせば中に入れる。十分準備してから来ることだ」
「イーーだ。あんたたちなんか秒で終わらせてやるんだからぁ」
そう告げると、コーネリウス、エルゲン、フィルミナの三名は二十三闘技場へと入っていった。