第四百九十一話 とある国の下町酒場
ここはとある国の下町酒場。昼間は食事処、夜は酒場と変わり大変な賑わいを見せる。
接客する仕事はどこも人手不足であり、高い人件費を支払ってでも確保したい店は多い。
特に王都では文明が進んでいる事もあり、益々働き手が不足していた。
本日は昼の食事処が休み。店の中で女将さんが頭を悩ませていた。
「あんた、本当に辞めちゃうのかい? うちとしては相当助かってたんだけどねえ」
「ごめんなさい女将さん。今のままだとどうしても仕事がきつくって。特に男性のお客さんの相手が」
「ふう。あんたは人気があるからねえ。おさわりしたらとんでもない罰金を課してるから触られる事は
ないだろうけど、目線とかが気になるのかい?」
「はい……素敵だなと思うお客さんもいるんですけど、私には辛くって」
「働き手がいれば続けられそうかい?」
「え? ……ええ。その方たちとうまくやっていければですけど……」
「しかしねえ。そんな急に人手が補充されるわけもないし、困ったねぇ……」
込み入った話をしている最中だった。酒場の扉が開けられる。
「なんだい? 昼は今日、休みだよ。また明日来とくれ」
「あのー、仕事の募集を見てきたんですけど」
「そうよ。私たち、こう見えてもよく働くのよ」
「お邪魔するっしょ。へぇ、広い店ね。暴れやすそう」
「ベルちゃんたらぁー。暴れるのは最終手段でしょ?」
「このブネは接客などせぬ。楽器なら弾いてやろう」
「あ、あんたたち。まさか仕事の応募者かい? こんないいタイミング、他にないよ!
こっちにきとくれ」
合図を受けた五人は付近の椅子に座る。女将さんと話をしていた、髪が長く線の欲し色白の
女性が少し驚いている表情を浮かべている。
「レナ。あんたはそのまま話を聞いていな。あんたとの相性も面接内容に入るんだからね」
「女将さん……わかりました。そうさせてもらいます」
「見た所あんたたち、よそ者だね。ここは結構大変な仕事だよ。給料はいいけどね」
「あら、どのくらい大変なのかしら。私たちそれなりに過酷な生活をしてきたけれど」
「まず名前は?」
「私はファニーよ。こう見えても料理は得意なの。味見用にいくつか持って来たわ」
「サニーって呼んで。色気抜群のサニーって。男に触られたら釣り糸で吊るすけど」
「ベニーっしょ。素早い動きなら任せて欲しい」
「ニニーでーっす。アイドル担当だから客引きは任せてー!」
『あんたはレニーでしょ!』
「そうだったぁ。てへっ。レニーでっす。アイドルだよーっ!」
「ブネだ。楽器なら弾いてやるが他はせぬ」
「……見事に役割がわかれてるね。それにはっきりとそれを言える。十分な能力がある
証拠さね。楽器のあんたは後で引いてもらうとして……料理、少し頂こうかね」
「わ、私もいいですか?」
「いいわ。この辺じゃ食べられないわよ。何せ私たちの旦那が考案した料理だから」
「へぇ。全員旦那がいるのかい? それならなおいいね。安心して雇える」
「美味しい……信じられないくらい。お店の看板に出来るくらいに」
「私たち、安く雇われる気はないわ。でも忙しいのは願ってもないわね。
旦那が頑張ってるのに暇してたりするのはこりごりよ。ね?」
「そーよそーよ。まったくいっつも一人で無茶して……今回だって本当に……」
「サニー! それ以上はダメ!」
「はぁーい」
「クスクス……面白そうな人たち。なんかすっごく元気でてきました。
私、レナって言います。本当はここ、辞めようと思ってたんです」
「えー? せっかく会えたのにやめちゃうっしょ? あなた、とっても可愛いのに」
「皆さんの方が綺麗ですよ。全員美女なんてずるいです。特にベニーさん? でしたっけ。
話しやすいだけじゃなくて、綺麗な髪に素敵な髪型……」
「ありがとっしょ。後で結ってあげるよ?」
「本当ですか!? 嬉しい!」
「はっはっは! レナが気に入ってくれてよかったよ。よし、まだ楽器も聞いていないが
全員雇うよ。それと……昼食はまだだろう? あたしのおごりだ! 今作ってやるから食べてきな」
『やったー!』
「ふむ。弾くまでもなく決まったのならよしとしよう。さて、あやつはうまくやっているかな……」