間話 思案する黒星
これはルインたちがまだ海底にいる頃の話。
アルカーンと連絡を取り合っていたベルローゼは久しぶりに城へと戻り、ニンファと対談していた。
「貴様が領地を安寧に保つよう指揮してくれたと聞いた。主フェルドナージュに代わり礼を言いたい」
「まぁ、ベルローゼ様にお礼なんて言われてしまうと、照れてしまいますの」
恐ろしい程の美顔を持つ漆黒の長い髪を靡かせるベルローゼ。
そんな美男子に直視されれば大抵の女子は目を背けてしまう。
「すまない。あまりエルフとの対談は慣れていなくてな。知り合いにエルフがいるにはいるのだが」
「あら、それはお母さまの事ですの?」
「イーファの事ではない。昔色々あってな。俺はこれからフェルドナージュ様の許へ
向かった後、アトアクルークへ向かわねばならん。今しばらくこの地を頼めるだろうか」
「勿論ですの。フェルドナージュ様がお戻りになるまで、しっかりとお守りいたしあますわ!」
「一つ……貴様の父についてだが……」
物凄く悲しそうな顔をするニンファ。それを見て首を振るベルローゼ。
「悪かった。今のは気にしないでくれ。今貴様に渡せる物があまりない。フェルドナージュ様がお戻りになれば、褒美を多くもらえるよう進言しよう」
「お気遣いはいりませんの。王政はわたくしの勉強にもなります。お母さまからも
しっかり学ぶよう言われましたわ。本当はお母さまがやればいいのに! って思いましたけど、いつ
まで経っても成長できませんものね。あら……? ベルローゼ様、少し……」
すっと手を伸ばし、ベルローゼについているものを拾い上げた。
「む……俺としたことが、ホコリでもついていたか?」
「いえ、ベルローゼ様、わたくし、これが欲しいですの。綺麗な花びらですの!」
そう言って満面の微笑みを浮かべるニンファが手にもっていたのは、桜の花びらだった。
ベルローゼはふっと笑いこう告げた。
「花びらではなく実際に美しく咲く花ならば、ルーンの町へ持っていってあるはずだ。年に一度だけ美しい花を咲かせるという。それが褒美であるのは俺が不服だ。いつかその花と同じような反物でも進呈しよう。ではな」
そう告げたベルローゼは、輝く黒星に乗り、あっという間に姿が見えなくなった。
その後ろ姿を見て考える。
エッジマールウルキゾナでは、こうはなれそうにないと。
自分が見初める相手としては、未だ不十分。そしてそれは自分もなのだと考えていた。
「わたくしも、もっともっと精進しますの! そして……お母さまやルインさん、フェルドナージュ様に
だって、認めてもらいますの!」
両拳を胸の前でぎゅっと閉め、決意を露にするニンファだった。
ベルローゼはフェルス皇国を後にして北上していた。
本来であれば飛空船メデューサリアを動かすべきだが、上空から向かうのは困難と判断した。
地上をひた走り向かう。
「神魔解放」
一気に加速するベルローゼ。既に神魔解放をかなりものにしており、動きも速い。
「ふっ……あいつも地上で修業を積んでくるはずだ。師である俺たちがうかうかしていられない……な。ベルディスよ」
そう考えつつかなり進み、国境外へ差し掛かったあたりの時だった。
「ぐっ……これは!? 転移術式だと? アルカーンか?」
「おやぁ、まさかまさか。罠を張っていたらとんでもない大物が連れたもんだぁね。
大変だったぁね、レルムイーターどもを動かし、フェルス皇国方面へ侵入するのは」
「何者だ……何だこの空間は」
「おっとぉ危害を加えるつもりはないんだぁね。ちょいっと大人しくしててくれないかぁね。
話次第では解放するからぁね」
突如として現れた謎の者に、転移させられたベルローゼ。彼は一体何処に転移させられたのか……。