第四百七十六話 メルフィールを戻すには
寝ているレミをルーンの安息所に置いてきた後、マァヤの店にシュイオン先生と二人で向かった。
既に立派な看板が供えられていた。さすがは可愛がっているニーメの力作。力の入れ方が違う。
看板はマァヤの顔がうまく再現され、動くマァヤが何かを混ぜている姿がありありと映し出されている。
ニーメ、暫く見ない間に腕をあげたな……。
「立派な建物ですよね。ここへきて驚きましたよ」
「先生にも立派な診療所を提供できるよう、ムーラさんに頼んでおくつもりだよ。
スピアと先生双方の絵が入ったような看板がいいのかな」
「いえ、私より……そう、出来ればこのような絵だと嬉しいのですが。ははは、お恥ずかしい」
そう言うと先生は一枚の絵を俺に見せた。
メルフィールさんだろうか。美しい女性と先生が、笑いながら正面を向いている絵が、描かれていた。
デッサンするものの器量がかなり高い。いい絵を描くものが、この世界にもいたんだな。
「この絵を渡しておけばそのように手配してくれると思うけど、借りてもいいか?」
「ええ。私は何度も見ましたから。無ければ無いで、平気ですよ」
「いや、せっかくの絵だからさ。ロケットにでもして返すさ。さぁ行こう」
建物の中に入ると、薬品類というより、薬草類の匂いで溢れかえる。
マァヤはせっせと何か作っているようだったが、直ぐこちらへ気づいて話しかけてくる。
「おやルイン。帰って来たのは知っておったが、顔を出せずすまないねぇ」
「いいんだ。以前、年寄りに無理させるんじゃないよって言われてから、ちゃんと反省しているよ」
「そんなこと覚えてたのかい。記憶力がいいねぇ……ところで要件は聞いてるし、メルフィールさんの
状態も見させてもらったよ。今となってはとても珍しい病だから、直せなくても無理はないんじゃ」
「一体どんな病なんだ? 医学の知識があっても、人の体にそのような事態が発生するような現象、前世では聞いたこともない。石灰化とかならわかるんだが」
「ルインさん、気になっていたのですが、どうやって医学の知識を? あなたはどう見ても戦士のように
見えるのですが……」
「それを話せば長くなる。そっちは何れ……な。あの変化はどう見ても器質化などとは違う。
生命活動を維持しているのだって不思議な状態だ」
「ルインよ。魔族についての勉強が足りていないようじゃな。人の場合であればとっくに死んでいるが、あの娘に影響を及ぼしているものは魔核じゃ」
「確かブネにも以前核がどうのと言われたな……第二の心臓のようなものか?」
「そうじゃな。魔核は各器官に密接に結びついておる。この魔核の種類によって……例えば身体機能を
強化したり、風術等を特化したりできるわけじゃ」
「それを聞く限りではいい状態になる事ばかりに思えるが、メルフィールさんに影響してる魔核ってのは?」
「……鉱物吸収魔核じゃ」
「鉱物吸収魔核? つまり鉱物を取り込んで半身が石化したと?」
「単純な鉱石を取り込んだ魔核なら対処の方法は色々あるんじゃ。それだけであるならシュイオン、あんたの力でもどうにかなったろう」
「……はい。ただの石化であるならば、解除は可能でした」
「つまりただの鉱石じゃないと?」
「メルフィールさんの体は半分が鉄のようで、目が赤くなっておるのは見たか?」
「ああ、確認した」
「メルザの目と似た色だと思わなかったか?」
「っ! 確かに、色はそっくりだ。しかしそれがなんだって言うんだ?」
「あれは幻魔鉱石。この地上では取れぬような鉱石じゃ。そしてその状態へ戻すのに必要なのは幻魔鉱石
そのものじゃ」
「そうか、それで……つまり幻魔の住まう場所に行ければ、手に入ると?」
「わからん。じゃが、手に入らなければ、この娘……メルフィールさんは永久にこのままじゃ」
「なら、ジェネストにお願いしよう。きっと力になってくれるはずだ」
「私からお願いさせてください! お願いします!」
「わかった。ジェネストは人間嫌いがまだ強いが、先生なら心を許してくれるかもしれない。聞いてみてくれ」
「どうやら話を聞いて見なければわからぬようじゃな。じゃがお主の仲間であればきっと力になるじゃろう。
わしはここでほかの材料を用意して待っておる」
「ああ。マァヤ、いつもありがとう。感謝しているよ」
こうしてマァヤに挨拶をし、次なる目的地であるニーメとブネ、ハクレイの場所へと向かう。
ブネは相変わらず温泉にいるらしい。少し気が引けるが……今後の事も話さねばならない。