第四百七十二話 思いすぎる者を、安心させる仲間たち
ルインを担いで戻って来たハクレイ。皆大分飲みすぎたのか、殆どの者が眠っていた。
起きていたのは眠そうにこくりこくりしているメルザと、ファナ、ベルディア。
ウォーラスやレウスさんたちは、温泉に入りに行ったらしい。
サラはルインがほかの女をひっかけてきたのが癪すぎて、やけ酒で寝ている。
そのやけ酒に付き合っていたのがそもそものひっかけてきたレミで、どちらも
酔いつぶれている。
「どっこいしょっと、疲れたわい」
「ハクレイの爺さん。あんた腰は平気なの?」
「このくらいの若さを背負うくらい、どうってことないわい。それとも
ファナちゃんが腰を揉んでくれるのかのう?」
「旦那の前でお爺さんの腰を揉む趣味はないわ。そう、旦那の前で、旦那……」
「でも本当にルインをそっとしておけっていうのは本当だったっしょ。思いつめてたのね」
ルインの髪をそっと撫でるベルディアに、若干嫉妬の目を向けているのはメルザだった。
「ふぁぁー。けどよぉ。何でファナたちはルインが落ち込んでるってわかったんだぁ? ふぁぁーー……」
「うふふ。メルザ、もう寝てていいのよ。長旅で疲れたでしょ? ……私たち、今回の旅に
行かなかったでしょ? 空気を読んだっていうのもあるけれど、なるべくメルザと二人にしてあげたかったのよ」
「でも結局デンジー三兄弟ってのを仲間にしちゃってるっしょ。他にも壁の身魔族やお医者さんや変な竜に
アイドル? お人よしにもほどがあるっしょ」
「こやつはのう、案外こう見えて寂しがり屋なんじゃろう。無口な方じゃしそうは言わんじゃろうけどな。
それに、恩を受けた相手への感謝する気持ちが人一倍大きいんじゃよ。それはお嬢さん方も感じておるじゃろうて」
「そうね……私はルインがいなかったらとっくに死んでたわ。そう、初めて会った時だって、盗みに入った
私たちを許してくれた。そればかりか私たちの心配をする始末。お人よしにもほどがあるわね」
「それを言うならこっちもっしょ。闘技大会で戦った相手を簡単に仲間にしちゃうなんて。
兄貴も私も嬉しかったけどね」
「俺様ー……ずっと……一緒にいてぇよぉ……すやぁ……」
ルインに寄りかかり眠りだすメルザ。くすりと笑ったファナが、メルザを持ち上げてルインの
横に寝かせる。
暫くして治療道具を持ってきたシュイオン先生が、スピアを連れて、ルーンの安息所へ入って来た。
「お待たせしました。ルインさんには困ったものですね。自分の町でこんな怪我をするなんて。
なぜ私に吐き出してくれなかったのでしょうか。私は、彼に吐き出してしまったというのに……」
「戦いでしか語れぬ事もある。それにこやつの事じゃ。そもそも苦しんでいるあんたを、苦しめたくは
ないんじゃろうなぁ」
「彼に頼られない。そっちの方が私には苦しいというのに……起きたら一つ、いたーい注射でもご用意しましょうかね」
「がっはっは。それがいいかもしれんのう。ところでそちらのべっぴんさんはどちらかなー?」
「ななな、なんだこの爺さんは! べべ、べっぴん?」
「助手のスピアといいます。これでも火竜種ですよ」
「ほう……しかしあのメルザという娘といい、おぬしといい、美しい赤色の髪の女性がおるもん
じゃのう」
妙なところに関心をされたが、べっぴんといわれてものすごく動揺するスピア。
シュイオンが包帯を要求していたが、包帯をなぜか自分の腕にぐるぐる巻きつけている。
「あのー……それをあなたの腕に巻いてどうするんですか?」
「う、うるさいうるさいうるさいー! ちょっと間違えただけだ!」
「ふう。まだまだですけど、スピアさんは一生懸命手伝ってくれますし、感謝してますよ」
ますます赤くなって、横をぷいっと向いてしまうスピアを見ながら、ハクレイは再び天を仰ぎ見た。
もう少し……もう数年早く彼らに出会えていれば……だが運命の歯車など、そううまくかみ合うはずもない。
全ては必然で起こり連なるものなのだから。
しばらくして、がばっと起き上がるメルザ。
「……あれぇ、俺様、寝てたのかぁ? ふぁぁ……」
「おや、起こしてしまいましたか。メルザさんは今日はルインさんに付き添って寝てあげてください。
私たちはこれで引きあげますから。おやすみなさい」
「ふぁぁ……先生、おやすみぃ」