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第四百七十話 帰りを告げる相手がいれば、辛い事は軽減するのか

 崩壊した風斗車の部品をいくつか持ちより、ルーンの町へと帰宅する。

 すると――――肝心のライラロさんは見当たらなかったが、メルザをはじめ多くのものたちが

出迎えてくれた。

 長くなってしまったメルザの里帰り。しかし終わってみれば短かったような気がする。

 そう、終わってしまったんだ。


「みんなただいま。大分待たせたけど……今日はぱー-っとやるか!」

『おおー--!』


 全員待ってましたと言わんばかりだ。というよりとっくに食事の準備はされていた。

 新しく増えた仲間もおり、一人一人紹介しつつ、ルーンの安息所で大賑わい。

 結婚式の時とは違い、堅苦しい雰囲気もない。

 

「ねぇルイン。なんでスピア以外の女もひっかけてきてるのかなー? それに

よりによって、アイドルを名乗ってた女よね、それ? どういうことかしら?」

「これには深ーい事情があるので、詳しくは後日……」

「レェンにロブロード教えてたお土産は? 一番頑張ったのはあたしっしょ。一番をくれるんでしょ?」

「ああ、忘れてないぞ。ちゃんと一番頑張ったやつに一番いいお土産をあげる約束だ」

「一番いいお土産ってどういうことっしょ!」

「そーいえばハクレイの爺さん、いないけどどうしたの?」

「なんかブネと勝負して、腰をやったらしいわよ、あの爺さん」

「メルちゃんこっちも食べるっしょ。食べさせてあげるね」

「ちょっとベルディア。主ちゃんに食べさせるのは私の番よ!」

「俺様そんな一気に食えねーぞ。ルインにやってくれよ」

「いーのよまた女ひっかけてきたんだから! ちょっとは反省させないといけないわ!」


 ……結局戻るといつものように騒がしい状態になるけど、これが日常ってやつなのだろう。

 それでも一生懸命食べてるメルザを見てると落ち着く。

 けれど……もうそろそろだよな。

 そう、みんな無理してるのはわかっていた。


 そして何より一番無理していたのは俺自身だろう。

 もうじきメルザに会えなくなってしまう。だからこそ、出来る限り帰るのを伸ばしたかった。

 そして、先に行かせて少し離れただけでも、心は落ち着かなかった。


 一緒にいた時間が長すぎて、身近に居すぎた。

 そんな主と半年も離れなければならない。

 あいつの一生懸命食べてる姿も、笑っている姿も見られない。


 だからこそみんな、メルザの周りから離れようとはしない。

 俺はずっと一緒にいられたが、あいつらは皆、我慢していたのだろう。

 

「少し剣を振ってくるから席を外すぞ」


 賑わう中から一人、席を外してルーンの安息所を出ようとする。めざといサラが心配

そうにこっちを見るが、手で静止した。

 今はメルザの傍にいてやって欲しい。そして、これからはメルザがいない事に耐えなけれbならない。

 

 訓練場へと赴くと、ティソーナ、コラーダを出して剣を振るう。

 共に戦ってきた剣。両方とも今は喋っていない。

 こいつらもそれほど野暮ってわけじゃなさそうだ。


「強くなった。でもどれだけ強くなっても、心ってのは鍛えるのが困難だ。

簡単に崩れるし心の中は変化するばかり。それでも一つ、変わらないものがある。

今俺がここにこうしていられる事。メルザへの思いだけは変わらない。

どうやって見送ればいい? どんな顔をして見送ればいいんだ? 俺には、わからない……」


 剣を振りながらつぶやき、涙を流す俺に話しかけてくるものがいた。


「忠義とは、果たし尽くす事叶わぬもの。お主自身がどれだけ悩もうとも、答えは見つかるまい。

だが死んだわけではあるまいて。わしと違ってお主の忠義は続けられるだけマシだろう」

「っ! ハクレイか……すまない、見苦しい所をみせた」

「よい、若者よ。出発前に伝えそびれたが……どれ、わしと一つ、手合わせしてみるかのぅ?」

「いいのか? あんた腰を痛めてるんじゃ」

「あれは建前じゃよ。熱が入りすぎぬようにな」

「そうか……それなら手合わせ願おう。今はそういう気分なんだ」


 ハクレイと対峙し、美しい剣ティソーナとコラーダを構えた。

 悪いとは思う。でも……この思いを受け止めてくれる相手が欲しかったのかもしれない。

 意識を手放し、戦う事を。

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