第四百六十九話 無茶振りをするライラロ
ライラロさんの暴走風斗車を止めた俺は、一足先にレミやウォーラスを封印から出して説明することにした。
半ばあきれ顔のライラロさんだが、これは想像通り。しかし……「あんた、壁の身魔族なのね。
昔少し世話になったのよ」
「仲間にカベ? 見覚えがない人カベ」
「私にはあんたたちの見分けはつかないけれど、優しい魔族だったわ。洞窟で毒を受けた仲間を癒して
くれたのよ。私たちが以前キゾナ大陸からドラディニアに向かう途中でね。それよりも……そっちの女
の方が問題でしょ、あんた。そいつ、闘技大会の時にいたやつよね。指名手配中のニニー」
「指名手配らしいんだが、懸賞金はかかっていない。重要参考人のようだ。しかもこれがまた曲者でね。
この指名手配をかけたのは、さっき話したアビオラだよ。全てカモフラージュさせるためにだそうだ」
「成程ね。自らの仲間に指名手配をかけるはずがない……か。おまけにニニーは姿形を自由に変える
能力がある……と」
「声もかえられるよーだ、ニニーちゃんは凄いでしょ? アイドルだしぃー」
「なんかイラっとくる喋り方ね。まぁさすがにベルディスの男らしい声は無理だろうけど」
「それって死流七支のウェアウルフの事? えーっとねぇ……おい、俺ぁさっさと先行くぞ。疲れちまった
からな」
「あなた、天才だわ! あとでゆっくり話し合いましょう! その声のままで!」
……こうなると思った。頭を抱える俺。ライラロさんはいたって単純。そして恐らくルーンの町の
全員、こいつに丸め込まれるだろう。
「ところでバカ弟子はどうしたの?」
「先に行ったよ。後ろでお腹がぎゅるぎゅるなってたから。お土産もいっぱい買ってきたぞ」
「急いで戻りましょう! さぁ早く! ぼさっとしないで! あ、ルインは風斗車担いできてね。
私水竜で先に戻るから。それじゃね!」
「はい?」
招来術で水の竜を呼び出したと思うと、飛び乗ってさっさとどこかへ行ってしまうライラロさん。
本当、本当勝手だわ! そして鉄砲玉過ぎる。もう少し後先の事は考えられないのだろうか。
ニニーも少しあきれ顔だが、すぐ慣れるだろう。
にしても……このバカでかくなった風斗車、運べってか。
いいよやってやるよ!
風斗車にまたがり思案する。俺は風術を使えない。かといって持ち上げて引きずるのは無理だ。
バラバラに砕いてパーツだけ持ち帰るのもありだが、滅茶苦茶怒られるだろう。
もとから残骸だったと説明しても相手はライラロさん。通じないだろう。
誰にも通じない? いやそんなことはない。たいていのものは残骸だ。
そうじゃなくてだな……。
「誰か、風術使えない?」
「はーいはーい。レミちゃんは使えまーす」
「まじかよ。お前器用だよな。物まねに泡で攻撃に招来術に、風術まで使えるのか?」
「うっふっふー。アイドルの秘密はまだまだでぇーすっ。それに、レミちゃんは真似してるだーけ。
いくよ! 風の輪流通!」
輪っか状態で広がるように風が吹き荒れる。風斗車の仕組みはいたって明快。
受けた術の力を圧縮した後解き放つように走り出す……のだが、こいつはライラロさんがとことん改造
しまくった風斗車。対して風を与えていないのに――――。
「うおおおおーーーーーーージェットコースターかよ! 一気に上にぶちあがりやがった!」
「いやっほーー! たーのしいーーーっ。うふふ! もっといけー!」
「ダメだって! 前にいけ、前に!]
「風の輪流通!」
「もっと上にあがっただと!? おい、ウォーラス気を失ってる場合か! レミ、前だ、前ーー!」
こうして散々上昇を続けた結果、今度は凄い勢いで前に進み、そこから勢いよく落下して
再びトウマを出し、ジャンか村付近に不時着した。
なお風斗車らしきものは結局、ただの残骸だったようだ……。