第四百六十八話 暴走しているもの
ルクス傭兵団のおかげで、スムーズにかつ見つからずに移動する俺たち一行。
ステルス機能付き空中移動手段……ある意味反則的だが、万能とまではいかない。
まず戦う機能は持ち合わせていないし、風抵抗があまり無いため、暴風には弱い。
そのため突風地域などでは使用できず、また雨が降れば姿は隠せなくなる。
ドラディニア、キゾナ、トリノポート大陸は比較的気候が安定しているが、他地域は
そうでもないらしい。場所によっては常時雷が降り注いでいた李、猛吹雪の場所も
あるんだとか。行ってみたいような行ってみたくないような……そんな場所だ。
「なぁなぁ。なんでキゾナ大陸から戻らなかったんだ? あっちの方がちけーだろ?」
「トリノポートを魔物の大群が襲撃したって話だ。上空からどんな状態なのか確認したかったんだ」
「そーいやハクレイって爺さんがやっつけたって話してたな。そんなにつえーのか?」
「どうだろう。一見するとただの鎧を着た爺さんだったが……本当に魔王なのか? あれは」
思案しつつ海を渡っていくルクシール。
まもなくしてトリノポート大陸が見えてきた。
久しぶりに遠くから見た自大陸は、緑豊かな土地が広がっていた。
「この大陸がやっぱり一番落ち着くな」
「ああ! へへへ……俺様とルインが出会えた大事な場所だぜ」
「そうだな……ここ一帯の風も心地いい」
「旦那ぁ! あんまり乗り出さないでくだせぇ。モンスターに気付かれやすぜ!」
「すまない! 自重するよ……ん? あれはもしかしてライラロさんじゃないか? 何やってるんだ、こんなところで」
元ベッツェンあたりに差し掛かった所だった。どうにも見覚えのある姿の人物に注視していたら、なんと
ライラロさんが風斗車……のような違う何かに乗って暴走していた。
「悪い、俺はここまででいい。メルザ! ライラロさんがいるから挨拶してくる! メルザをルーンの町まで頼めるか?」
「えー、俺様も行っちゃだめか?」
「ちょっと様子がおかしいし危ないからやめておいた方がいいぞ。確実に巻き込まれる」
「わかりやした旦那。無事に送り届けやす。一度着陸しますんでお待ちを……」
「ここで構わないよ。広いから久しぶりにあれをやりたくて」
ルクシールから飛び降りると、俺はドラゴントウマのトウマを出現させ、その上に乗る。
相変わらずのでかさだ。久しぶりだな、トウマ!
「うへえ。噂には聞いてやしたが、本当に竜を出されるとは。おっかねえ」
「いいなぁー--、俺様も乗りたかったぁー!」
「悪いなー-! メルザー--! 今度ゆっくり乗せてやるからー--!」:
フッと消えるルクシールに向けて大きな声を放つ。ライラロさんもトウマにはもちろん気付いて
こっちに来ようとはしているのだが……「ちょっとー---、止めてぇー---!」
「神魔解放! 何やってんだライラロさん!」
物凄い勢いでトウマに突っ込んで来ようとしてたので、慌てて着地し、乗り物を止めようとするのだが……
とんでもない力だった!
「嘘だろ!? 真化! ……獣化! ぐおお……紫電清霜!」
後ろ脚にバリバリと紫色の電気を発しながら、獣の足でどうにか突撃する風斗車の
ようなものを抑え込む。暴れ馬のように動こうとするのでどうにか無理やり方向を地面へと向け
て止めた。
「はぁ……はぁ……なんて力だ。一体何やってるんだ! こんなところで」
「じ、実験よ! シフティス大陸は広いから、移動手段としてちょーっと手を加えたの!
あの大陸は足の速い魔物が多いのよ。別にあんたたちが追われて困ると思ってやったとかじゃないわよ」
「……俺たちの事を考えてやってくれたってのはいいけど。これ、使い物にならんだろ。
またあの峠で起きた事故を起こすつもりか?」
しゅん……と小さくなるライラロさん。この人は放っておくとすぐこれだ……気持ちだけは
ありがたいが、シーザー師匠にしっかりブレーキをかけてもらわないと。
……ああ、今不在だったんだ。師匠……あなただけが頼りです。