第四百六十四話 ルーンの町の三人娘
ルインたちが戻るのを待っていた三人娘たちは暇を持て余していた……。
いっそついていけばよかったと何度も考えたが、そうもいっていられない。
レェンにロブロードを教えた後は、めっきりやることが減ってしまっていた。
ロブロードをしつつたまに修行をして、作物の収穫を手伝ったりと、まじめに働く三人。
しかし……。
「あーー、刺激が足りないわ。ルインがいないとなんでこんな退屈なの?」
「サラ。あんたがそもそも刺激爆弾みたいなものじゃない」
「そうっしょ。一番騒いで暴れまわるんだから」
「なんですって!?」
「なによ」
「それより村に行って果物とってくるっしょ。メルちゃんが帰ってきたら絶対食べたがるよ」
「賛成! いくらなんでももうすぐ帰って来るわよね?」
「どうかしらね。案外二人でいちゃいちゃしてるかもよ?」
「ないない、それはないわー。だってルインよ? そんなことしてる暇……」
「あら、泉の前とかでキスしてたわよ」
「ふ、ふーん。別に? 悔しくなんてないし? メルザちゃんだし? いいんじゃない?」
「はぁ……ルインは今そんな暇してるわけないっしょ。兄貴も出かけて久しいし、練習相手も
全然いないからなまっちゃうっしょ。シッ、シシッ」
「あんた本当に格闘好きよね。突進型武器を持った方がよさそうなのに」
「まどろっこしいのは嫌いっしょ。さ、さっさと果物取りに行くっしょ」
三人がジャンカの村に出ようとしたとき……ちょうどシュイオン先生とスピアが泉よりルーンの町へと
入って来た。
「え? 誰っしょ。知らない人だし」
「ここに入れるってことは、許可をもらったってことでしょ。それじゃルインたちが道中で?」
「後ろのはどう見ても女だわ。また女ひっかけてきたわね! まったくもう!」
「でもちょっと怖い顔してるっしょ。怪我もしてる」
三人口々に思い思いの事を話す。シュイオン先生は少し圧倒されたが、落ち着いて話始めた。
「ルインさんに許可をもらってまいりました。シュイールウェニオン。シュイオンと申します。
彼女はスピア。そしてこちらはメルフィールです。ひとまずメルフィールを安静な場所に連れて行きたいのですが、案内していただけないでしょうか」
「あ、あら。誠実そうで素敵な方だわ。ごめんなさい、私はファナ。こっちがサラでこっちがベルディアよ」
「よろしくね。ルインはまだ来ないの?」
「サラ、案内が先っしょ。話はそれから」
シュイオン先生を個室部屋まで案内すると、メルフィールを寝かせる先生。
ひとまず大きくため息をつき、安堵する。
「その女性……酷い状態ね。この個室は好きに使って平気よ。空き部屋だから」
「すみません、助かります。私の部屋もここで構いません。それと、治療用に使える場所は
あるでしょうか? 私は医者をしてまして」
「お医者さんなの!? 道理で強そうには見えないわけね。そっか。ルインはやっぱりどこに行っても
ルインね」
「本当っしょ。まさか医者を口説いてくるとは思わなかったっしょ。後ろの怖い女も医者なの?」
「いえ、彼女は私の助手です。スピアさん、警戒するのはわかりますが、せめて挨拶を」
「……人間に話す事なんてない」
「あら、私妖魔よ。こっちは神兵、こっちはオーガと人魚のハーフよ」
「え? 一人も人間がいないのか?」
「そうなるわね。全員外見はほぼ人間だけど」
「やっぱり、見た目じゃわからないんだな……悪かった。スピアだ。クアドロプルドラゴン……混合竜
にされた哀れな竜だよ……」
「竜!? 凄いっしょ! 一緒に特訓しよ!」
「こらベルディア。まだ来たばかりのお客さんでしょ。もてなすのが先。ルインに怒られるわよ」
「そうだったっしょ。ごめ。町を案内するね。先生、医療に使う場所はルインが来てからじゃないと
わからないけど、モラコ族のムーラさんに頼んでおくっしょ」
「ありがとうございます。私の案内はいいので、スピアを案内してやってください。
それとマァヤ・アグリコラさんがここにいらっしゃるとか。後で面会をお願いできますか?
私は少し……ここで彼女を見ていたいんです」
「……ええ、伝えておくわね。気が利かずにごめんなさい。行くわよ、みんな」
そう告げると、先生とメルフィールを残し全員部屋を後にした。
「メル。ここにアグリコラ先生がいらっしゃるようです。本当に君を助けられるかまだわからない。
それでも僕は諦めない。突き進む彼のように、僕も君を救うため、ここで頑張ってみるよ」
そんなはずはないのだが、メルフィールが少し微笑んでくれたかのように見えた。
シュイオン先生は少し微笑むと、メルフィールの髪を撫でてやった。