第四百六十話 なぜここに
セーレたちが追いつき、地上へと降りてきた。さすがに突き放されるとは思っていなかったようで
セーレが少しふてくされている。
「速すぎるよね! なんで空を飛んでるのに追いつけないのかな! 悔しいよね、悔しすぎるよねー!」
「そんなこといってもこっちはメルザ一人。セーレは先生にスピアとジェネストを連れてたんだから
無理もない。安全だったみたいでよかったよ。ご苦労様」
「随分と速くなりましたね。ふふ、今ならその形態でも負けてしまうかもしれません」
「悪いが近接なら負けないだろう。クリムゾンと二人でならわからないが」
「それよりルインさん。お早めに。今日はここで泊めてもらえるかもわかりませんし……」
「そうだった。このまま入っていっても平気なのか? 俺はあんまルクス傭兵団の団員に
詳しくないからなぁ」
そう言いながらもアジトである建物へと入っていく。ここには一度死にかけの時に担ぎこまれたんだっけ。
リルが駆けつけてくれたんだよな。リルたちの方は大丈夫だろうか。少し不安だ……。
建物の近くにいくと門があり、案の定威勢のいい声が聞こえてきた。
「おい止まれ! ここは許可なく立ち入り禁止だぜ!」
「おいおい団体さんかよ。あれ……? もも、もしかして統領じゃねえですかい? 本当にきた! か、開門開門!」
「統領って……そんな風に呼ばれてるのかメルザは」
門が開くと慌てて何人かが迎え入れてくれる。相当驚いた顔をしているが無理もない。
ここへ行くなんて一言も伝えて無かった。
「統領、本当にいらっしゃるとは。怪しいやつだったもんで嘘かと思ってたんですがね」
「? どういうことだ? ここに来るなんて俺は一言も言ってないぞ?」
「あれ? おかしいっすね。アビオラってやつとレミってやつが来てて、そう伝えればわかるから待たせろと」
「……今、なんて?」
「へぇ。ですからアビオラってやつとレミってやつが来て、奥で統領たちを待ってやす」
俺は額に手をあてた。参った。まさかここに来ているとはさすがに思わなかった。しかも待っていると
なると戦うつもりではない。間違いなく交渉の類だ。
一体何を考えているんだ……そもそも俺にキャットマイルドをけしかけたのは間違いなくニニーだろう。
アビオラも一緒ってのがひっかかるが……当然関わりがあるんだろうな。
「どうするのですか。このまま行くおつもりですか」
「そうしないといけないのは間違いないんだけど。それよりあんたら、ルクシールはいくつか出せるかい?」
「もちろんでさぁ! 頭からはいつでも動かせるようにしておけといわれてたもんで」
「それじゃ頼みがある。シュイオン先生とスピアをバルバロッサまで運んだあと、患者を連れて
ルーンの町まで送り届けてほしいんだ。許可は出してあるから説明もできればお願いしたいんだが」
「統領にはいつも世話になっておりやす。喜んでその役、引き受けさせていただきやす」
「ルインさん。私も……」
「いいんだ先生。本当はもっと早く送り届けてやりたかったけど、あとの話はルーンの町で合流してからにしよう。先生を危険にさらすわけにはいかないんだ。それに……先生との旅、最高に楽しかった。
また一緒に、冒険しようぜ!」
「ルインさん……ええ、私も……私を解放してくれてありがとうございました。あなたがいなければ
私はきっと、疲れ果てた生活を続けていたのでしょう。そして……大切なものを諦めていたかもしれない。
いくらお礼を言っても言い足りないくらいです」
「礼はそうだな、先生の大切な人と笑いあう先生の笑顔。それだけで十分だよ。
町に着いたらルーンの安息所という場所にいるであろうファナ、サラ、ベルディアを頼ってくれ。
ルインの紹介を受けた医者だといえば、丁重にもてなしてくれるはずだ。スピア、お前も町を
ゆっくり見て行ってくれ。今度俺のグリドラやトウマも紹介するから」
「ふ、ふん。行きたくはないが助手だからな。仕方なく行ってやる。なるべく早く来い」
「そのつもりだ。それじゃ先生たちをよろしくたのむよ」
こうして先生たちを見送った俺は、メルザとともに奥にいるらしい二人に会いに向かった。