第四百五十九話 どうやって帰ろうか
聖堂辺りまできた俺たちは、帰り道を考えていた。ついでに少し聖堂の中を調べたいところだが、あまり
寄り道している場合でもない。
「セーレ。幾らなんでも全員連れてバルバロッサまでは運べないか?」
「ヒヒン! 厳しいね! ルインがかなり重量があるからね! ヒヒン!」
「そーいやかなり筋肉がついたからな。これも神魔解放の影響……か。スピアとメルザとシュイオン先生だけならいけるか?」
「行けるけど、安全に戻れるかわからないよ!」
「それは困る。それなら俺がメルザを抱えて、シュイオン先生、スピア、ジェネストがバルバロッサへ。
これでどうだろう」
「ヒヒン! それなら行けるね! でもルインはどうやって戻るの?」
「ちょっと見てな……神魔解放!」
神魔解放した俺は、空中へ飛翔して見せる。明らかに跳躍の高さがおかしい。
「ヒヒン! 高く飛びすぎだよ! 人が飛べる高さじゃないよ!」
「やっぱ体内の神経伝達がとてつもないほど向上したようだ。速さを越える速さ……納得がいく。
跳躍だけじゃなくて移動速度が相当あがった。今なら空は飛べないものの、かなりの時間空中に
滞在できそうだ。それじゃセーレ。先生たちを頼む。俺はキゾナ大陸まで戻りルクス傭兵団の力を借りにいく」
「ルインさん。ルクス傭兵団の滞在場所はここから南へ真っすぐ下って行けばあると思いますよ?」
「そうなのか? そうすると一度全員でそちらを目指した方が速いか。ここから真っすぐ南下すればいいのか?」
「やや東にそれますが、とにかく南へ行きましょう」
「わかった。それじゃセーレ、頼むぞ。メルザ、いつも通りくくりつけてくれ。それとこれはクリムゾンからの贈り物だ。つけてやるからおいで」
そう言うとメルザは近づき、ちょっと頬を膨らませる。どうしたんだろう?
「俺様、他の男からの贈り物はあんましもらいたくねーな……」
「何言ってるんだ。あいつは幻魔人。メルザにとっては同じ種族だろう?」
「うーん。俺様よくわからねーんだよな。幻魔人とか」
「それに、他の男と言ってもクリムゾンは俺たちの仲間だ。みんなメルザを好きでいてくれることは
嬉しく思うけどな。それにこの耳飾りがメルザを守ってくれるっていうなら、俺から頼んででもつけて欲しいと思う」
「わかった。それじゃルインがつけてくれよ。俺様にはこの指輪があるしな!」
納得してくれたようで、耳飾りをつけてやると、淡い紅色に光り輝いた。
クリムゾンも紅色の瞳を持つ。幻魔人に関する特徴なんだろうか?
そういえばブレディーの瞳も同じ色だったような……。
「さて、準備も出来たし、行くか! 紫電清霜!」
全身に雷を迸らせながら一気に駆け抜ける。途中見つけたナマルなどを切って落とし、後ろのメルザに渡す。
かなりの速さで行動出来る上、視界も広く感覚も鋭い。器用な事も可能だ。
上空を飛翔するセーレを大きく引き離して移動できる程の圧倒的速度。
これなら短時間でルクス傭兵団の許へと行けるだろう。
何度かターゲットに反応こそあれど、すぐ消えてしまう。こちらの移動速度にモンスターがまったくついてこれていないのだろう。
この大陸でなら戦闘は極めてイージーにこなせるようになったのかもしれない。
だが……新大陸シフティスで果たして同じように行くのだろうか。
そう考えつつ爆進していると、少し見覚えのある建物が見えてきた。
ナマルの木の上にあがり上空を見上げる。
「ルイン。すげー-、本当に父ちゃんみたいにはえー!」
「いやいや、メルザのお義父さんはもっともっと速かった。俺にもまだ上があるってことだ」
「なぁルイン。まだセーレとか来てねーからさ。んっ……」
メルザに軽いキスをされた。どうしても早く感謝の気持ちを伝えたかったのだろうか。
満面の笑みを浮かべる主を見ながら、セーレたちが追いつくのを、ナマルの木の上で少し待った。