第四百五十三話 漆黒衣、襲撃
しばらく横たわっていると、シュイオン先生が駆けつけてくる。
手を振って応えようとするが上がらない。参ったな、倒れていられる余裕はない。
「大丈夫ですか!? ルインさん! モンスターにやられたんですか?」
「いや、モンスターなんて可愛いものじゃない。怪物……っていうかあれは
アンデッドでもなかったしなんだったんだ? 精神体? いや、蹴り飛ばされたし殴られたな……」
「……? だ、大丈夫ですか? 今治療します!」
「先生、すまない」
「まったくだらしないですね。それで主を守れるんですか?」
「うぐっ、ルーイズの力量を見る限りあのままじゃまずいと思ったのは確かだ。
この大陸の奥地でも通じないかもしれないと……」
「あなたの全てを見せたわけじゃないでしょう。私を取り込んだ時のあなたは、今の
あなたのように弱くはなかった。あの時の力はもう出せないのですか?」
「無茶言うな。野獣のような形態だったんだろ。それに……俺が望まない行動をとる形態に
何の意味があるっていうんだ」
「それでも主を守りたい……そこに意味があるのではないですか?」
「っ! 確かにその通りだ。どうにか力を制御できるようになれるよう、頑張ってみるよ」
「精進することです……と言ってもそれはあなただけじゃない。私も同じ事です」
ジェネストに厳しい指摘を受けるものの、その裏で
自分の変化に驚いてはいた。紫電清霜……スイッチがつながったっていうのかな。
この力は使い方が今のところ詳しくはわからないが、一段階上がった感覚はある。
先生に治療をしてもらいつつ、ジェネストに周囲を警戒してもらう。
レウスさんにも上空を見張ってもらおうとしていた。
そのタイミングだった。奴が現れたのは。そして……。
「……ターゲットに反応は無かった! こっちを狙っていたんじゃない。漆黒の衣? 何者だ!?」
「ふっふっふ。久しぶりだね、ルイン。君の最愛の人はこちらの手の中だ。悔しいだろう?」
「くっ……離せ! 離せぇー!」
「まったく困ったものだよ。いくら待っても聖堂には来ない。ロジアール村の方へも来ない。
おかげで随分と待ちぼうけさせられたよ。だがこれで……ようやく、ようやくだ」
「うぐ……はな……せ!」
「やめろ! その手を放せ!」
「おっと、今君は動けないようだな。強がるのは良くないんじゃないか?」
「お前一体何者だ!? なぜ俺を狙う!」
「何者か? ……何者かだと!? 覚えてないとでもいうのか! ふざけるな……ふざけるな
ふざけるなふざけるなぁぁぁ! この声、姿。一目見て分かるはずだ!」
「まったくわからない。そんな漆黒の衣を身にまとっていたら」
「漆黒の衣? 何を言っている。このキャットマイルド、そんなもの被ってなどいないだろう!」
「キャットマイルドだと? あいつは確か三夜の町で……」
死んだのを確認したわけじゃない。だが……とてもじゃないが助かったとは思えない。
それにおかしなことを口走っている。漆黒の衣を確かに身に纏っているし、声も別人。
こいつに一体何があったんだ?
「ふっふっふ。さぁルイン。貴様を最も苦しめられる方法だ。そこで貴様の大切な者が失われるのをよく見ているがいい! そして絶望に打ちひしがられている貴様を嬲り殺してやろう」