第四百四十九話 義父、ルーイズ
「うわああああああ!」
「なっ!? ルイン! ルイ―――ン!」
何者かに突如足をつかまれ……地面深くに溶け込むように沈められた。
一瞬の隙。警戒は怠っていなかった。ターゲットに頼り切るのは良くない。それは理解していたはず
だったが――――。
地中に引きずり込まれる感覚とは少し違い、別空間に引きずり込まれるという方がしっくりくる。
視界も直ぐにはっきりして、紅色と黒が渦巻くような何もない空間へと落とされた。
なんだここは? 亜空間? アルカーンさんの空間とはまるで異なる空間だ。
「オイ、オ前。あの娘の何ダ」
「骨!? いや、グール……とも少し違う。アンデッド上位種か!?」
「質問してルのは俺様の方ダ。答えロ」
「その問いに答えたら返してくれるのか?」
「返答次第だナ。どのみち答えなければ帰還は不可能ダ」
「神魔解放! はいそうですかってできるわけないだろ。いくぞ!」
「ほう。やるつもりカ。この俺様に勝てるとデモ? 小童が、かかってコイ」
「それなら最初から全力でいくぞ! 封剣……サルバシオン」
一気にアンデッドへ近づき、今放てる最大級の剣技、サルバシオンを放つ。
しかしアンデッドは空間に溶け込み回避してしまう。
「クックック。何だその遅い動きハ。そんな速度で戦っていて強いツモリカ?」
「おいおい、これでも相当な修羅場をくぐってきたんだぞ。ティソーナの一撃だって遅く
ないはずだ!」
「てぃーちゃんからすれば遅いでごじゃろ……あくびが出るでごじゃろ」
「……お前な。敵の話に乗ってどうする」
「剣に呆れられる程度の男ヨ。我が神速を見ヨ」
空間を溶け込みながら一気に間合いを詰めてくるアンデッド。速いっていうか瞬間移動だろ、これ!
目で追おうとするが全く負えない。
「そんナ視力に頼った戦い方デ、強くなれると思うノカ」
「いいや、神経伝達速度を考えれば頼っちゃいけないのはわかる。神魔解放を手に入れてからずっと
考えていた。視覚を向上させるより……」
俺は目を閉じアンデッドが攻撃してくるのを待った。
「フン。覚悟を決めたカ。きついの一発、食らわせてヤルゼ!」
「そこだ! 赤閃!」
「グッ……こいつ、当てた瞬間に反撃ヲ」
「触覚に全集中力を注いだ。攻撃する瞬間が一番居場所を特定出来る。最速で放つ剣技だから
そこまでダメージは与えられないが」
「小賢しイ。しかしいい判断するじゃネーカ。オメー、なかなかヤルナ」
「……恐らく、いや十中八九そうだと思うんだが……」
このアンデッド。ほぼ間違いないだろう。
「あんた、メルザの父親じゃないか?」
「……なぜ、そうオモウ」
「喋り方とタイミングだろう」
「……驚かないのが無償に腹が立つから殴らセロ」
「断る! 村の中に入っても、アンデッドが襲ってこなかったのはあんたのおかげか」
「勘がいいのも腹が立ツ。一発殴らせロ」
「断る! それで……どっからどのように聞けばいいんだ? まずあんたがなぜアンデッドになったか
ここで何をしているのかを聞けばいいか?」
「断ル!」
「いやそこで真似すんなよ! 話が進まないだろ!」
「おいそれよりモまずハ名をなのレ。俺はルーイズ。おめーの言う通り、メルザの
父親ダ」
「俺はルイン・ラインバウト。名前はメルザにつけてもらった」
「似た名前じゃねーカ! ずりーぞおめー! メルザに名前つけてもらうなんテ!」
「知るか―! 俺じゃなくメルザに言え!」
「バカイエ。こんな姿、あいつに見せられるわけねーだロ」
「まぁ、そりゃそうだよな。ボロボロのアンデッドだし」
「誰がボロイアンデッドだてめー! はっ倒すゾ!」
「まずい、やり取りが進まないタイプだ……あーとそれでお義父さん」
「おい今なんつっタ? お義父さんだト? おめーにお義父さんなんて呼ばれる筋合いは
ねーナ!」
「いてぇ! いきなり殴る事ないだろ!」
「あースカッとしたゼ。それで、なんだったかナ。面倒くせーから帰っていいゾ」
この骨! なんてやつだ。メルザが男バージョンになるとこうなるのか。
メルザからすっぽりと可愛げだけを取り除いた感じだ。
参ったな。色々聞きださないといけないってのに。
アンデッドの事やこの村の惨劇の事をどうにかして聞き出そう。まずはそれからだ。