第四百四十五話 魅せる、クリムゾン・ダーシュ招来
「最も深き闇、クリムゾン。血の底に在りて歪より生じる力の一旦。
万物在りて己が力を欲するものの意思となれ。闇の幻魔人クリムゾンダーシュ招来」
地面が紅色に包まれ、 十指の剣を交差させる者が現れる。
それを見てコウテイとアデリーがその場で真似をした。
コウテイもアデリーもすでにあのポーズの虜だ。
メルザも首を傾げながら真似しようとしている。
シュイオン先生もスピアも驚きを隠せない。
「敵は」
「アンデッド、総数約……二十から三十」
「御意。殿方殿、あとでお話を少し」
「時間があれば大歓迎だ。俺は上空をやる! 頼むぞ!」
「承知! アニヒレーションズ!」
美しく十指の剣を交差させたまま奥にいるアンデッドへ突進していくクリムゾン。
それとは反対側の集団へ、ジェネストも突進する。
「アニヒレーションズ!」
双方がおりなすアニヒレーションズにより、辺り一面切り刻まれていく。
これほどの斬撃を見る事になるとは。しかしアンデッド相手に斬撃だけでは仕留めきれるかどうか。
スピアのような炎であれば燃やし尽くせば復活はしない。
しかしアンデッドはバラバラにしても復活するからな。
「剣戒! メルザ、上空のをそこから狙えるか?」
「うーん、ブレスゥー、ブレスゥーー!」
「……何してるんだ、メルザ」
「いやー、俺様もブレス吐きたいなーって」
口をヒューヒューさせているのは可愛いんだが、やってる場合か!
「グキューーーー!」
甲高い声をあげながら、上空の鳥型生物が襲ってくる。
羽根のようなものを飛ばしてきた!
「赤閃!」
「壁をつくって防ぐかべ」
「ウェーイ!」
コウテイたちがウォーラスの造った壁に入る。ウォーラスも判断が早い方でとても助かる。
結構な高さから攻撃してくる鳥形魔物。あまり見たことがない形態だ。
以前地底で見かけたアルキオレイブンに少し似ているな。
「あれも竜種なのか? わかるかスピア」
「……う、うるさい! 私に聞くな! 知るか!」
「あれはフェザービート……の亜種でしょうか。私も見るのは初めてなのでなんとも」
「ち、違う! あれはフェザーメルトだ! 羽根に触れると衣服が溶ける!」
「なんだと! そういうのは先に言ってくれ! こんな所でアーティファクトのみの変態装備になるとか
冗談じゃないぞ! 真化!」
急ぎ真化して早めに対応することにした。上空の敵はまだやりづらいが……試してみるか。
「黒星の氷造形術、ブラックイーグル! モデルウォーター」
今までは小さい玉をどう遠くに飛ばすか……それを考えていたが、発想を大きく変えた。
俺のモードは海水。それを高圧縮して放つ。当然強度の問題があるが、黒星ならきっといける!
キラキラと黒光する美しい銃身が長いブラックイーグルを創造した。
「試しに一発、妖赤海水弾!」
一直線に放たれる赤海弾。三百メートル程の上空にいるフェザーメルトへぶち当たり落とした。
スピアが驚愕する。無理もない、あいつは赤竜だ。あんな攻撃くらったらひとたまりもないだろう。
「なんで戦っているとき、それを使わなかったんだ」
「お前を殺すのが目的じゃない。鱗と爪があればそれで充分だったんだ」
「おかしい! おかしいおかしいおかしい! だってお前ら人間はあの時だって!」
「落ち着け! 今は戦闘中だ! 話は後にしろ!」
「殿方殿、落としただけで満足していないかな。クリムゾン、ディー、ヘキサブレード!」
俺が落としたフェザーメルトに一瞬で近づき、強烈なご連斬を加えるクリムゾン。
動きが速い! こいつはやはり相当な実力者だ。まだまだ上があるのだろう。余裕を見せている表情だ。
「すまない。気を付ける!」
「ふふっ、素直なところは実にあなたの魅力的なところ。言い訳しないところが清々しいまでもありますな! 深淵に沈め、フロート、ティー、インビシブルブレード!」
「おいおい、いくつ技を持ってるんだ。今度は消える斬撃!?」
上空に斬撃を浮かせたかと思うと、ふっと消えて残りのフェザーメルトを切り刻んでいた。
俺より器用なやつだ。
あっという間に襲い来る集団を倒すと、十剣を振るい、胸の前で交差する。
「すみませぬ、殿方殿。お話しは残念ながらまた後日。お時間のようです」
「ああ。おかげで助かったよ。あの鳥は想定外だった。また会おう、クリムゾンダーシュ」