第四百三十二話 対クアドロプルドラゴン戦 後編
飛翔したクアドロプルドラゴンは、巨大な翼を大きく広げ、四つの頭からは今にも炎のブレスが縦横無尽
に放たれようとしていた。
飛翔する隙をついて、いくつもの壁をウォーラスが作成。ちょうどクアドロプルドラゴンからは見えないような角度を付けた壁を構築してもらう。
「無駄な事を。全て焼き払い、燃やし尽くしてくれる。インディスクリミネイト!」
強烈なブレスが辺り一面見境なく燃やし尽くす。ウォーラスが作ってくれた壁はことごとく焼き尽くされ
破壊しつくされた。
「な……いないだと!? どこへ行きおった。確かあのあたりの壁に小賢しく隠れていたはずだ!」
『ピーノ!』
「くっ……こいつ一体どこから! ぐああ、尻尾が崩れる……なんだこれは」
「そこだぁーー! ちったぁ大人しくなってくれよ! エスパーダコンヘラル!」
突如現れたルインは、飛翔するクアドロプルドラゴン最前の竜の顎下……一枚だけ逆さになっている
鱗へエスパーダコンヘラルを打ち込む。逆さになっている鱗がみるみると凍っていった。
「な……ぜ。人間……如き……が」
「だから妖魔だっての。それにな。あんまり如き如きと他種族を見下すなよ。竜がどれだけ崇高な生き物か
知らないが、そんなんじゃ損ばかりするぞ」
「く……だめだ……人間に……再び、この姿を……さらすことに……な……」
しゅるしゅると縮んでいき……人型サイズくらいの生物になった。やべ、落ちたら死ぬぞ!
「レウスさん、頼む!」
「任せろ! こいつも友達だよな? な?」
「ふふふ、たかがアンデッドなんて馬鹿にされてたのに、そういうところがレウスさんぽくていいな」
「ルインが笑った! 久しぶりだな? 嬉しいぞ」
「そうだったか? まぁあんまり笑う方じゃないな。嬉しい時に笑ったりするんだけどさ」
レウスさんが抱えてくれたので落ちる事はなかったが、重いらしくゆっくりレウスさんも落ちていく。
これは……竜人、なのか?
メルザよりもっと濃い色の真っ赤な長い髪。四つの小さい竜の髪留めをつけた女性だった。
なぜ人型がこれほどまでに人間に憎悪を持っているのか。
「どうでごじゃろ。てぃーちゃんの言った通りでごじゃろ?」
「竜の逆鱗を凍らせろか。逆鱗って本当に文字通り逆さの鱗なんだな。かなり注目してみないとわからないけど」
「竜には必ず逆鱗があるでごじゃろ。こやつは顎の下にあったでごじゃろ? そうじゃない個体もいるでごじゃろ」
「場所が固定されてるわけじゃないのか……こいつは大型だから見分けがつきやすかったが、ルーみたいな
個体だと見わけをつけるのが大変そうだな。それでこいつ、どうしたらいいんだ。何枚か剥がれた鱗とか
かけた爪とか落ちてるけど、これ持っていけばいいのかな」
「ルイン。なんか地面から凄い音がするカベ。ちょっと危ない予感がするカベ」
「確かに聞こえるな? な? ルイン、こいつを背負って早く戻った方がいいぞ。俺がまた浮遊
させるからな?」
「そっか、レウスさんに預けてたら足場を気にしないといけないから時間がかかるな……わかった。
よいしょっと……あれ、あんな巨体だったのに軽……まったく。背負って帰って意識戻したら
また竜になんてパターンじゃなきゃいいけど」
「平気でごじゃろ。あれだけ逆鱗を冷やせばしばらくは眠ってるでごじゃろ」
「そんなもんか。んじゃティソーナもご苦労様。よし、戻るぞ!」
どうにかクアドロプルドラゴンを鎮めた俺は、倒すどころか連れ帰るという謎の行動をとるのだった。
少々先が思いやられるな……。




