第四百十七話 空の旅と万有引力
上空の雲を突き抜け進んで行くセーレ。その背中に乗り、ルインは考えていた。
自分もこんな風に飛んでみたいと。
相当な高さまで飛翔したり、獣戦車なるものに変化したりできるようになった。
しかし未だに空を飛ぶような真似はできないし、装備がなければ骨が砕かれてしまう。
一体セーレはどうやってこんなに高く飛んでいるのか。気になって聞いてみた。
「なぁセーレ。お前どうやって飛んでるんだ?」
「ヒヒン! 唐突だよね。答えに困る聞き方だよね、それってさ! ヒヒン!」
「あー、ええとだな。このゲンドールって世界はさ。割と重力がらみが無茶苦茶じゃないか?」
「それはそうだよね。術を行使している人があまりにも多いもの。気流にある魔の源となる力。
そこから引っ張る力を弱めてるんだよ、ヒヒン!」
「引っ張る力を弱める? 万有引力に手を加えてるとでも? まさか、ニュートン先生に怒られそうだ……」
「君の言うところはよくわからないけど、きっとそういうことだよ、ヒヒン!」
学生の頃、ただひたすら詰め込むだけのつまらない引力と斥力。だが実際はとても面白い内容だった。
重力とごちゃまぜになりそうだが、切り分けて覚えた方がわかりやすい。
「しかし……それってずっと魔法を使い続けてるってことか?」
「ヒヒン! そうだよ。だからいつも君の中で休んでるよね? そうしないと疲れがたまって飛べなくなっちゃうんだよ! あんまり無理させないでね! ヒヒン!」
「飛べなくなったら大困りだ。普段はずっと俺の中で休んでいてくれて構わないよ」
「いいなぁ。俺様もその中に入ってみたいぞ」
「私も、興味ありますね。一体どうなっているのか……」
「私もです! 入らせてください!」
「全員却下! おいそれと入れていいもんじゃない。それに俺が死んだら死んじまうんだぞ」
「ん? 俺様ルインが死んだら生きてく自信ないぞ?」
「死なないようにするために、医者である私がいるんです」
「私はまだ死にたくないなぁ。でもでも、中がどうなってるか気になるしー。うーん」
「だから、入れないって! 特にメルザ。主を封印したら本末転倒だろ!」
「本末転倒ってなんだ? 食えるのか?」
「あははは。君たちは本当に仲がいいですね。羨ましく思いますよ」
「むー。こんな可愛い奥さんもらってぇ。このこの、幸せ者め」
「でもな。この度が終わったらしばらく会えなくなるんだ。だから今、これくらいは勘弁してくれ」
「あ……ごめんなさい。そうだったんですね……」
「私もからかってしまいすみません」
「いいんだ。永劫の別れってわけじゃないし。それにこういう自然体でいるのが
俺たちらしくていいのさ。な? レウスさん」
「ん? そうだな! 俺はみんなの友達レウスさんだ!
あそこに飛んでるでかい鳥も友達だ! な?」
飛んでって突撃するレウスさん。 しまったーー!
「ま、まずい。みんな戦闘準備だ! レウスさんはほぼ百パーセント……」
「おーい、俺だ。バシちゃんだぞー! おまえらの友達だ!」
はいやりましたー。早速敵さんを連れてくるレウスさん。大量です。
しょうがない……試してみるか。まさかこんなに早く試す時がくるとは。
はぁ……昔を思い出すな。あの時も鳥、相手だったな。
「黒星の鎌」
「え? ルイン、それは!?」
俺は黒星の鎌を、こちらへ向かって来る鳥に向けて投げかけた。
みたこともない鳥だ。一匹は封印出来るだろう。
「ふっ……終わりだ」
「ギュキイイイイイ」
俺は完全にベルローゼ先生の真似をしてみせた。
そう、完璧主人公役に俺は徹したぞ!




