第四百七話 アビオラとの対談
俺はヴィオエールとやらをぐいっと一息に呑んだ。
確かにいい味だ。酸味が少し加わってる。シャンディーガフ……ビールのジンジャーエール割り
とは違うが飲みやすい。
「どうだい美味いだろう? この大陸より美味い酒はなかなか飲めないぞ?」
「それは本当か? いい話を聞いたな」
これで他大陸より相当美味いなら、いい酒を用意できそうだ。ありきたりなただのワインや焼酎、日本酒などといったものではなく、もっと深い部分で提供できる知識ならある。
「ところでまずは……本当にルインであるかを確かめたい。情報のすり合わせだが……」
なるべく当たり障りのない範囲で情報共有する。この人物、伊達に主任を務めていない。
聞き出すのがかなり上手いようだ。職業柄か?
「……うむ。こちらの情報と一致するね。人相特徴の一致も取れた。団長さんのメルザ殿は
治癒院で治療中。他の団員たちも散り散りで活動中か。確かに今はそこら中で不安定な状態。
それと、ルクス傭兵団も君たちの団膜下に入っている。規模的にはもう中規模といっていいだろう」
「活動自体はキゾナ大陸に渡る前、かなりしたからな。俺の力というよりは、殆ど仲間のお陰だけどさ。
俺一人なんかじゃ出来ることは多くない」
「聞いている通りの人物でほっとした。何せガーランドの一件からレンズも実力者相手にはかなり慎重
でね。レンズそのものを崩壊させるほどの力を持っている奴もいる。聞いたことはあるかね?」
「いいや。俺たちはトリノポート出身。他大陸のものと関わることも少なかったから」
「そうだったね。あの大陸は――奴隷にされる亜人や獣人が多い。この大陸でも奴隷として働く者が
多くいる」
「……そうだよな。俺のいた世界の常識なんて、通じるはずもないよな」
「何か言ったかね?」
「いや、何でもない。それよりこちら質問してもいいか?」
「ああ。何でも聞いてくれ」
「ギル・ドーガに滅ぼされた村や町があるのはどのあたりだ」
「……おいおい、傭兵団ならいくら何でも噂位は耳にしているだろう。不死者の巣靴とかした場所に
行くつもりか?」
「どうしても行かなきゃならない理由があるんでね。場所だけ教えてくれればそれでいい」
「まぁお前さんは実力者だ。レンズとしても止めることは出来んか。まだ特定封鎖地域に指定してはいない。
だがかなり危険だぞ……いや承知してるって顔だな。わかった。その場所……ロジアールの村はここから
かなり離れている。ドラグアマウントはわかるか?」
「いや。ただ仲間が一度訪れた事があったかな。竜種が多く住まう場所で滝が流れてる……だったか」
「ほう。あの地に顔を出した事があるやつがいたか。あそこはいい採取地なんだがモンスターが多くて
なかなか採取が厳しい場所だ。そのドラグアマウントがここよりずっと西。
そこからずっと北上していくと大きな聖堂跡が見えてくるだろう。そこからもう少し北に行ったあたりだ。
ドラディニア大陸は広大な大陸。行くなら十分準備してから行けよ」
「わかった。恐らくそんなに時間はかからないと思うが……もう一つ聞いていいか? シュイオン先生
いるだろ。一人で治癒院を運営してるように見えるんだけど、他に医者はいないのか?」
「この国ではそもそも、外から来た者以外治療を受けようとしない。自然のままに死ぬ事を望む」
「なんだって? じゃあ病気や怪我をしたら」
「受け入れて死ぬ。それをよしとしないシュイオンが治癒院を始めた。中にいた人は多くなかったろう?」
「ああ。少なすぎる。町の規模を考えればどう考えても足りないだろう」
「まぁそのあたりの話は本人に直接聞くといい。お、レミちゃんこっちだ!」
「すみません、おまたせしました! 店じまい完了です。主任」
「ご苦労さん。ついでにこいつの身元も確認できた。話も頷ける内容だったから報奨金を渡してやってくれ」
「はい。小袋に入れてあります。大きい声じゃ言えない金額です……レギオン金貨十五枚も入ってます」
「情報提供でそんなにもらえるのか?」
「はい。何せ相当な大事ですから」
これはかなり有難い。軍資金がそこを突きかけていたところだ。とはいえレンズでの仕事も
しないとな。
「ありがたく使わせてもらうよ。それと……ロジアールの村近辺でこなせる仕事ってあるか?」
「ありますよ! 明日またレンズを訪れてくれれば見繕っておきます。幻妖団メルの活動再開ということで
いいでしょうか?」
「ああ。よろしく頼む。来たところで悪いんだが、ツレが心配で。先に戻るぞ。お金は……」
「ああいらんいらん。たった一杯で帰っちまうのは寂しいが、来たばかりで忙しいんだろう。
悪かったな。明日、レンズで待っている」
「必ず行こう。それじゃ」
もう少し情報を聞いていたりしたかったのもあるが、俺は何よりも――――。




