第四百三話 バルバロッサの町
少しだけ落ち着くのを待ってから、エレギーを担ぐ。
コウテイをもう一度読んで乗せてもいいのだが、町に入る事を考えると、この方が都合がいい。
ジェネストは仮面をつけているが、六剣はしまえるため人と大差ないだろう。
特に竜騎士がいる大陸だ。仮面の騎士などさして珍しくはないと思う。
「あの赤いレンガ作りの塀がバルバロッサか。少しベルータスの根城を思い出すな」
「人間の町ですか。気に入りませんね」
「そうは言っても今は二人を休ませないと。それに、少し情報も欲しい。頼むから暴れてくれるなよ」
「そのような事はしません。ディーン様に顔向けできませんから。それに……」
「ん? 何かあるのか」
「いえ、何でもありません。行きましょう」
「レウスさん、さっきから黙ってるがどうかしたのか?」
「あいつ。さっきのやつな。何か見てると思いだしそうなんだ。な? 何か知ってるような
気がするんだが思い出せない。おいルイン。あいつと話してていいか? な? いいよな?」
「今はそっとしといてやってくれ。落ち着いたら話してていいよ。レウスさんも俺の中でゆっくりして
てくれ」
「おう。また後でな」
レウスさんの知り合い? いやいやレウスさんは誰にでも友達といって突っ込んでいくからな。
しかしいつもとは違う気はした。もしかしたら本当の知り合いか?
「入口に兵士がいますね。殺りますか?」
「だから殺らないって! 町の入り口に兵士や門番がいるのは当たり前だろ!」
「そういうものですか。では頼みます」
まったく物騒な。幻魔人形ってのは戦闘しか頭にないのか?
門に近づくといぶかしんだ目で見られる。どう見ても人型だ。
「止まりなさい。旅の者かな。見かけない顔だ。戦士か? 随分とぐったりした奴を連れているようだが
病気か何かか?」
「毒の治療を終えたばかりだ。解毒はすんでる。中に入れて欲しい」
「む、そうか。一応治癒院ならある。何名か兵士が同行するが、外部の者ならそこを利用し、問題
なければ許可証を発行しよう。勿論受け入れが困難だと判断されればお金は必要ない」
「うん? ……ああ、それで構わない。ただし、俺も立ち会う」
「安心したまえ。仲間を引きはがしたりはしない。それにこっちの彼は……傭兵じゃないかね?
もしそうなら受け入れを拒まれはしないだろう」
「そうだった。彼はエレギー。傭兵だよ。それじゃ案内頼む」
念のため俺が幻妖団メルであることは伏せておいた。いらぬ心配だとは思うが……それにしても
要所要所引っかかる部分があるな。
中へ通してもらうと、町はどれも煉瓦造りだった。
赤く統一された外観はどれも美しいし、道中の露店は面白そうな物を売っている。
メルザなら飛びつきそうだ。
「悪いが果物が売っていたら買いたいんだけど、それくらいいいか?」
「ああ。一応同行するが、この国にお金を落としていってくれるのは歓迎される。見ての通りあまり
豊かではないのでな」
「そうか? トリノポートやキゾナに比べればかなり豊かに見えるが」
「君はそっち出身なんだな。シフティス大陸やシーブルー大陸に比べれば、ここドラディニアも決して
豊かではないのだよ」
「そうか……贅沢のバランスってのはどの世界でも違うもんなんだな」
適当な露店で不思議な果物を店主の勧めで買う。起きたら真っ先に腹減ったって言うだろうし。
兵士に連れられて、一つの大きな煉瓦造りの建物へと案内された。
ここが治癒院? とてもじゃないが設備が揃ってるとは思えない。
もしウォーラスに出会ってなかったら本当にやばかったかもしれない。
背中に冷たい感覚が走った。
「シュイオン先生! 二名程見てもらいたい。解毒済みとのことだが患者だ」
「こちらへ。それともう少し声をお静かに。他の患者にご迷惑ですよ」
「おっとすまないな。それでは私はこの入口で待つ。許可が下りたら許可証を発行するので
君は私と同行するように。他の者はここで休んでいて構わないから」
「ああ。色々すまない」
「気にするな。仕事だ。それにこの町がいい町であるとできる限り広めていきたいのだ。私は」
安心できそうな町でよかった。今まで訪れた町の中ではかなりいい雰囲気だと思う。
今は無きベッツェンもかなりいい町だったが……。
俺も治癒院に入り、シュイオン先生と呼ばれた人物の診断を待った。




