第四百二話 間に合った解毒
「ハヤイ。コレガヨウマノチカラ」
「いや、ちょっと違うな。これは神に与えられた力だ」
「カミ? マゾクガカミノチカラヲ?」
「そもそも魔族ってのは神に近い存在らしいぞ。ウォーラス。それより道はこのまま真っすぐで
いいのか?」
「アア。ミッツノデグチデイチバンチカイ」
「真化! ……もっと素早く行くぞ!」
一気に加速して駆け抜ける。登り気味だが関係ない。ようやく外の光が見えてきた。
さすがに眩しいな。出た先は草原。見晴らしがいい。好都合だ。
「バネジャンプ! ……あそこか」
上空から見下ろして居場所を確認した。
遠目に見えるアデリーとジェネスト。やはり既にエレギーも横たわっている。メルザは……ジェネスト
が背負っている。あいつ……。
「娘は……無事か。わては置いて早くいけ」
「これはかなりまずいです。もうすぐ町だというのに。あなたもしっかりなさい! 彼に笑われて
しまいますよ」
「足が動かんのだ。這いずってでも追う。だから先にいけい」
「……わかりました。必ず後から迎えに行きます」
「いや、そこで止まれ! 二人とも!」
「マニアッタ。ココナラヒトニミラレズゲドクデキル。イソゲ」
「ルイン? もう追いついたのですか? あのモンスター、それなりに強い相手と見受けましたが」
「メルザが心配で。話は後だ。ウォーラス。頼めるか」
「マカセテオケ。イチドオレノハンシンヲカベニトリコミタイ。ソッチノムスメカラダ。
カナリキケンナジョウタイダ」
「はぁ……はぁ……ルイン……ルイン……」
「入れといた氷がもう解けてやがる。どれだけ高い熱が出てるんだ。急いでくれ!」
メルザをつかむと付近の壁になりそうなものへ半身を突き入れるウォーラス。
自分を媒介にして解毒するのか? 凄い種族だ。
「グガギイイイイイイイ! グウ……」
「お、おい大丈夫か?」
「ドン、ドグギアーテノドク。オレノタイナイニイレタ。ナカマノクルシミ、シッタ」
「血清を自己体内でつくって流しいれるのか……お前。無毒化を体内で構築できるっていうのか」
「ソウダ。オマエハチシキヲモッテイルナ。ワレラカベノミマゾクハ、タイナイデトクシュナコウタイヲ
ツクレル。ヒトデハナクマゾクノダガ、オウヨウハキク」
「いや、メルザも幻魔人。恐らく俺と似た構造だ。エレギーは人だと思うが……」
「……ヨシ。コレデコノムスメハアンシンダ。次ハ……グッ」
「お、おい。平気か?」
「ソノヨウニシンパイサレルノハハジメテダ。ワレラマゾクナド、ツカイステノドウグ」
「何言ってんだ、お前。そんなわけ……ああ、メルザ。よかった。本当によかった」
メルザの呼吸は落ち着き、少し表情も和らいだ。相当な汗をかいていたので拭ってやる。
本当に、本当によかった……。動揺して手の震えが止まらない。こいつに何かあったら、俺は
こうなってしまうのか。先が思いやられる。
「ジェネスト、メルザを頼めるか。エレギーを担いでくる。お前は毒を受けても発症しないんだな」
「わかりました……それはあなたもでしょう。毒すら効かないなんて、また勝てる要素が減って
しまいました」
「サァハヤク、ソッチノオトコヲ。テオクレニナラナイウチニ」
「わかった。しっかりしろエレギー! ……重い。どうにかダイエットさせよう」
「コノタイカク。リョウヲフヤサネバ」
再びメルザと同様抗体を産生して注入していく。
やはり少し苦しそうなウォーラス。幾ら間接的に壁の身魔族の手助けをしたからって
放って暮らす事もできたろう。
「……オワッタ。モウダイジョウブダ。スコシクタビレタ。ヤスンデイイカ?」
「ああ。その前にいいか?」
「ナンダ? ヤハリシンヨウデキズケストイウナラカマワナイ。ソトニデレテマンゾクダ」
「何言ってやがる……」
俺は精一杯感謝の気持ちを込めて、抱擁した。
「ありがとう。二人を助けてくれて、本当にありがとう」
「ソノヨウナカンシャ。ウマレテハジメテダ。フシギナヤツダナ、オマエハ」
「同じ感謝を後二回、ウォーラスは受けるだろう。さぁ、休んでいてくれ。俺の中に居れば
町の中だって自由に見る事ができる。一緒に生きていこう」
「アア。アタタカイナ。ココハ」




