第四百一話 壁から出てきた者
壁から出てきたそいつは……確かに忌み嫌われそうな恐ろしい外見だった。
右手は悪魔のソレ。左は翼のような形状。顔は白い仮面のようで鋭くとがり、目は二つ。
口からは牙も見える。これならキゾナ大陸では間違いなく喋っても狙われる。
言葉も片言だし。
「キメラ種か?」
「チガウ。オレハカベノミマゾク」
「壁の身魔族? 聞いたことが無いな。壁の中で生活しているのか?」
「ソウダ。コワガラナイニンゲン、ハジメテダ」
「俺は人間じゃない。妖魔だ。それで、俺を助けるって?」
「オマエノナカマ。アノママダトシヌ。ドン、ドグギアーテノドク」
「なんだって? 空気中に散布される毒かなにかか? メルザは多少の防毒アクセサリーが
あるが、もうボロボロだったな……そうすると俺もか?」
「オマエ、キットタイセイガアル。ナカマ、コタイサデ、ハツドウスル」
「そうか。メルザは一番体が弱い。だから発症しなかったのか。そうするとエレギーも」
「フダンはハキダシテイナイ。オキテルトキ、シゲキスルオトデハツドウスル」
「どうすればいい? 解毒薬は?」
「オレガツクレル。デモ、オレマチニイケナイ。コロサレル」
「ストックはないのか? ここで作れるか?」
「アルケド、オレガメノマエデチョウゴウシナイトダメニナル」
「参ったな。ここまで連れてくる時間、あるか……?」
「イソゲバマニアワナイカ? アノセイブツ、オマエノナカマダロウ」
「……なぁ。お前名前はあるか」
「ナマエ? ナマエッテナンダ?」
「お前そのものを表す言葉だよ」
「オレハカベノミマゾク」
「それは種族名だろう? お前自身を表す言葉は無いのかって聞いてるんだ」
「ソンナモノハナイ。ナカマガイタコロハミナ、イシソツウデキタ」
「……お前、一人なのか」
「ミンナ、ココカラデタ。ホトンド、コロサレタ」
「お前は外に出たくないのか」
「ドン、ドグギアーテ、シンダ。オレモソトヘデタイ。デモオレ、コワイ。イチバンオクビョウ」
「臆病ってのは悪い事じゃない。それだけ慎重ってことだ。お前さえよければ俺に取り込まれる気はないか」
「オマエノイチブニナル? ヨウマハソノヨウナチカラガアルトキイタコトガアル。シトヒキカエニ」
「死なないよ。俺が死ねばお前も死ぬが、それ以外は自由だ」
「ソウカ。オマエハナカマヲコロシタドン、ドグギアーテヲタオシテクレタ。コノママイキテイテモ
イズレコロサレテイタ。オマエトイケバオレハミツカラナイノカ?」
「ああ。隠れていられる。ただし、まだお前を信用しきったわけじゃない。俺はお前を消す事も出来る。
だがもし仲間を救ってくれたなら、お前に最大の敬意を払おう」
「……ワカッタ」
「名前がないと呼びづらいからな。名前、つけていいか?」
「アア。タノム」
「そうだな……ウォール……ラス。ウォーラスってのはどうだ? 壁とその下地になるラス。
響きもいいし」
「ウォーラス。ソレガオレ? ウォーラス。イイナ」
「それじゃ封印するぞ。中は快適らしいが、壁の身魔族にとって快適かはわからない。持ち込める物も
あるようだから、そのうち好きにやってくれ」
「? ヨクワカラナイガソウスル……」
俺はウォーラスを封印した。久しぶりだな。こうやって封印するのは。
壁の中だけで生きる魔族か……この世界にはそんなやつらもいるんだな。
……今は一刻も早く合流しないと。
「よし。いくぜウォーラス! 封印中でよく見てな! 神魔解放!」
「……オオ。ソトノセカイ。ソトノセカイニ!」




