第三百九十五話 誰が誰よ
ルインとメルザが里帰りへ出かけた頃――――。
「やっと出発したわね。ルシアから連絡はまだない?」
「きてないわ。苦戦してるのかな。あの幸運女」
「こっちはどうにかして私たちで対処しないと。これ以上時間をとられて、あの子がいなくなる時間を
先延ばししたくないの」
「ライラロさん、なんだかんだでメルザの事好きよね」
「ば、バカ言わないでよ。ただのバカ弟子よバカ弟子。別に好きとかそーいうんじゃないんだから!」
「はいはい。別にいいっしょ。私ら全員メルザちゃんの事大好きだし。それで何匹位いるの? モンスター」
「五百から八百っていう話ね。遠目から見た限りの話だけど。伝えたら確実にルインは飛んでいくわ。
ベッツェンに立ち寄ってたんじゃかなり時間かかるし。あんたら準備はいい?」
「ええ。いけるわ。お兄ちゃんとカノンちゃんには伝えてないけど」
「……それにしてもあんたたち。よくルインと向かうの、我慢したわね」
「私たちは……私たちじゃいたら邪魔になる。そう思ったのよ。メルザは絶対泣いてしまう。
でもそれを受け止めてあげるのは、ルインの役目よ」
「そうね。私たちが支えてあげるのは、もっとずっと後の事よ。それまではきっと大丈夫」
「さて、わしもいこうかのう。お嬢さん方や」
「わわっ! ちょっと爺さん! あんたいつからそこにいたのよ!」
話し合う女性陣の後方で、じーっと見ている老人が話しかける。
ハクレイである。
「いつからだったか覚えておらんのう。若いもんをちいっとばかし揉んでやったんじゃが。
いやー楽しかったのう」
「それってベルドたちのこと? うそでしょ? あの二人と戦ってピンピンしてるの?」
「まだまだ若い者には負けん。それで……モンスターの襲来かの?」
「ええ。数が多いうえに竜種までいるのよ。どうにもその一部がジャンカの村に向かっているらしくて」
「……そうか。ここは良い場所じゃ。まだここへ来て日が浅いわしでさえわかる。そんな場所を壊されて
はたまらぬからな。わしも行こう。ホイホイ! ホイホイはどこじゃ!」
しかし返事は返ってこなかった。
「むむう。なんじゃったかな。そうじゃ! ラーラ! ラーラはどこじゃー!」
「ヒヒィーーーーン!」
「あんた、ホイホイって何なのよ。普通そんな名前つける?」
「うーむ。わしゃ気に入ってるんじゃがのう。そうじゃ。お嬢さん方にもいい呼び名をつけよう。
そうじゃな……とんがり角きつ目、まるっと大砲胸、色仕掛け色気無し娘、ニ本尻尾髪ッショ娘
でどうじゃ!?」
『はぁ!? 誰が誰よ!』
この後ハクレイを強烈な術やらが襲うことになる。
ハクレイが術に襲われている同時刻……ベッツェンより更に西付近。
「まじでうじゃうじゃいやがるな。こりゃ直ぐには戻れねぇか。ツヴァイ! もっと上空へあがれ!」
「姉御! こりゃちいっとばかりまずくねえですかい? あのモンスター共、規則的に動いてやすぜ」
「みりゃわかる! 戻ってきてそうそうどうなってやがんだ? そもそもあのモンスター共、どっから
湧いてきやがった」
「キゾナからじゃねえでやしょう。あそこから攻めてきたやつは全て、フー・トウヤが倒しちまいやしたし」
「あれはあれで化け物みてぇなもんだからな。そうすると崩落したベッツェンの地下もしくは……残りの
港町。どっちかだろうよ」
「しかし、いいんですかい。ルインの旦那を送っていかなくても!」
「構やしねぇよ。あいつならてめぇで何とかするだろ。ベルディスの弟子だぞ、あいつぁよ!」
「そうでやした! こっちはあっしらで何とかしやしょう! ルーンの町は俺たちにとっても居心地がいい
場所だ!」
『おーー!』
「ったく。セフィアもいねえからただ働きだってのに。まぁいい。戻ったら尻でも……あん?
おい、誰か追われてる! 助けに行くぞやろう共!」
『おおー!』
「ふぅ、ふぅ……しっかりしろレェン。お兄ちゃんが絶対守ってやるからな」
「お兄ちゃん……僕、おいて逃げてよ。僕なんか連れてたら殺されちゃうよ」
「何言ってるんだ! 絶対おいてったりするもんか! 兄ちゃんが絶対守るから!」
「グァウウウーーー!」
「燃斗! くそ、火を怖がらない!」
「お兄ちゃん、ごめん。ここで二人死ぬくらいなら、僕はお兄ちゃんを生かしたいんだ」
「ば……ばかやろおおおおおおおおおーーーー!」
「ここまで、ありがと。お兄ちゃ……」
「ウガルウウウーーー!」
「レェン! 燃斗! レェン!」
「ふう。間一髪だ。お前ら、運がいいな」
兄と思わしき人物が背負っていたレェンという子は、自らの意思で手を離し、兄を振りほどいて
落下した。
その兄弟を追いかけていたウルフ型モンスターが食いあさろうとしたその時、ツヴァイに乗った
ルシアがレェンという弟を拾い上げ、兄共々ツヴァイへ乗せ、ふっと光を発しながら消える。
突如消えたように見えたが、ウルフ型モンスターは鼻が利くようで、ルシアのいる上空方向を睨み
続けていた。
「気付かれはしたが、背に腹はかえられねえからな。こいつらを統率してるやつらにも気付かれた
可能性がある。野郎共! このままドラディニア拠点まで戻るぞ! センタ! お前は
キゾナ側に回って泉からルーンの町へ戻って知らせろ! いいな!」
「へい!」
「おいお前ら。全く幸運だったな。この幸運を呼ぶ女、ルシア様に拾われるたぁよ」
「レェン。よかった。ありがとう、ありがとうございます……立った一人残った家族なんだ……」
「僕、助かったの? 僕なんて助けても、何の役にも立たないのに」
「おめぇ……目が……」
そのレェンという少年は、両目に深い傷があり、塞がっていた。
ハクレイのあだ名、誰が誰だか理解できましたら、あなたはもう立派な、我が主の虜でございます!




