第三百八十九話 美しき紅色の髪を
ハクレイと話していると、奥からニーメとファナもやってきた。ここにいたのか。
ファナはニーメをいつも心配していたが、ルーンの町にいるときは安心だった。
しかしアルカーンから聞いた一件で、この町の警備関連を不安視している。
それは俺もそうだ。今後の課題だが、これは早いか遅いかの問題。多くの人を受け入れたいメルザ。
その願いを叶えるならば、治安などは俺がどうにかしなければならない問題だろう。
鎖国か開国かの違いだが、これは人間の考え方により大きく変わる問題だ。
一概にどちらが正しいとは言い切れないだろう。結果論にしかならないと思う。
この町の治安強化に関しては既に手を打ち始めている。まだ実験段階だが……。
「ルイン。先に来ちゃったのね……もう少しお披露目は後のつもりだったのだけれど。
驚かせたくて」
「メルザの事か? どうしたんだ。まさかあの丈の合わない純白のドレスでもしたてていたとか?」
「違うわよ。あの子はやっぱり水玉の紅色の服が良く似合うわ。それにね。しばらく会えないと思ったら
どうしてもいたたまれなくて。二人で話してね。決めた事があるのよ」
「メルザお姉ちゃんすっごーーーく綺麗になったよ! お兄ちゃん幸せ者だね!」
「はっはっは。それを言ったらメルザは喜ぶだろうな。それにニーメ。幸せなのは俺だけじゃないさ。
ここの領域にいる全員、あいつを愛してくれている。そう思うんだ。それだけで俺は凄く、幸せなんだ」
「そうね。あの子がいるだけで周りにいるみんなが明るく楽しくなれる。でもね。メルザにはあなたが
必要なのよ。あなたがいなければもう、あの子は生きてなんかいけない。それ位にあなたを思ているわ。
勿論、私たちも」
「ファナ……ありがとう。大丈夫だ。無茶をしないとは言えないが、みなを守りながら自分の命も
大事にするから」
「うふふ。何言ってるの。あなた自身を守るのは、あなたの一部である私の役目よ! 譲れないわね、それは」
「はっはっは。それを言うなら俺の一部であるファナを守るのも、俺の役目だろう。それじゃそろそろ
メルザに会いに行っていいか?」
「ルイーーーーーン! とぉーっ!」
後ろから全力疾走……といってもとても遅いが駆けてくる紅色の髪の女性。
ドーンと勢いよくぶつかって来るが、何て弱いタックルだ。ここまで力がないのか……。
「メルザ。そうか、。髪を切ってもらってたんだな」
「へへへ。どーだ? 似合うか? こんな短くしたのは初めてでよ。恥ずかしーぜ」
「ああ、とってもよく似合う。女性は髪で随分と雰囲気が変わるからな。綺麗だよ」
ボンッと赤くなるメルザ。いや予想はしてたけど。
肩口で切りそろえた髪。愛らしい笑顔。本当に無邪気で純真だな。
「なぁルイン」
「ん? どうした?」
「俺様、腹減った」
「……あのな。せっかくいい雰囲気を一撃で粉砕しないでくれ……」
「ふっふっふ。いいのう。若いというのは。わしも後三十年若ければのう……」
「ん? 誰だこの爺さん」
「ああ。紹介がまだだったな。ハーヴァルの知り合いでハクレイっていう爺さんだ。シフティス大陸
から来たそうだぞ」
「へー、そうなのか。俺様はメルザ・ラインバウト様だ! よろしくな! にはは!」
「元気な娘さんじゃな。さて……ルインよ。お主これから出かけるんじゃろ?
しばし若い者でも揉んでやりたいんじゃが、訓練場を借りてもいいかのぅ」
「おいおい爺さん。あんまり無茶するなよ。今いるのはベルドやミリルたちだから、相当な手練れだぞ。
あいつらもしばらくしたら出かけると思うが……」
「いい若者を見つけて少し、やる気がでてしまってのう……なぁに怪我などさせぬよ」
いや、逆に怪我されそうで心配なんだけど。そんなに腕が立つように見えないから安心していれた
んだが。
実は手練れなのか? しかし齢七十って言ってたよな。
「ん? 俺様出かけるんだっけ?」
「里帰り、行くだろ?」
「あー! 俺様忘れてた。まだ手は増やさなくていーのか?」
「いやいやいや、増やすわけじゃなくてだな。はぁ……やっぱメルザには敵わないな。
新しく作ったメリンはもう食べたか?」
「ん? 俺様食ってねーぞ! どこだ? ルインのお菓子か?」
「ルーンの安息所にあるから食べてきな。ファナもニーメも。その間にキゾナ大陸の様子をセーレと
見てくるから」
「わかった! 先に行くなよー!」
「大丈夫だって。俺だけ行ってどーすんだ!」
バタバタと駆け足で移動するメルザ。本当に元気だな。
あ、ポーチからココットのお土産を取り出してなかった……そっちはまた今度だな。
そーいえばココットの様子が見えないがどこにいったのだろう?
古代兵器か。ゲンドールの古代文明は、どうなっていたんだろうか。
そんなことを考えつつ、上空を飛んでいるであろうセーレを探した。




