第三百八十七話 男同士の宴は静かでクール、其の二
「やぁ。こうして君と二人になれる時間があまりなくて」
「リルか。驚かすなよ。お前も疲れてるだろう? 休まなくていいのか」
「今日はここで君と二人ゆっくり休もうと思ってさ。ほら、僕も君も結婚したろ? こうして
二人でいられる機会は今後多くないと思ってさ。お酒、飲むかい?」
「そうだな頂こうか。こういうのは結婚前日にやるもんだが、後ってのも悪くないか」
リルにお酒を差し出され飲む。リルと二人こうしていると、過去の思い出が走馬灯のように思い
描かれる。
「こうして君といると、アルカーンの空間で治療していた時の事を思い出すよ」
「あの時は喋れず参ったな。真っ二つにされる経験だけはもう御免だね」
「でもさ。あの事件があったからこそ、ここまで君と仲良くなれたんじゃないかな。まさか封印される
事になるとは思わなかったけど、案外自由に出入り出来て便利なんだよね。離れていても
制約も無さそうだし」
「一体どういう仕組みでそうなったのかは知らないけど、幻術にしろ妖術にしろ不思議だな」
「不思議? そうでもないよ。僕からすれば宙域やら絶対神の方が不思議だね」
「そうか? 前世でも神の存在は否定されていたが、他者に干渉しない神と考えうる存在はいても
おかしくないとは思った。何せ宙域は広い。そしてゲンドールのような宙域の膨張を止めるような仕組み
があってもおかしくはない」
「君は宙域の事をよく知っているのかい?」
「いや、わかっていることは少ないよ。四つの力……強い力に齢力、電磁の力、そして重力。
たった四つの力で構成されているってことくらいしか」
「へえ! それは面白いね。重力を操る力とか凄く興味がある」
「リルは模倣しちゃいそうだな。四つの原理のうちの一つだ。この法則を捻じ曲げてるだろ、リルの
フルフライトなんかは」
「確かにそうだね。その原理はゲンドールでは当てはまらない部分がある。それが神ってことなのかな」
「おそらくはそうだろう。俺のいた地球という星には無いものだったが、何せ宙域は広い。
他の宙域に向かった師匠たちは、さぞやおかしな現象を目にしてるんだろうな」
そーいやイビンが見当たらないけど、師匠たちについていったんだろうか。
大丈夫かな。ちょっと心配だ。人一倍臆病だし。
「彼なら平気じゃないかな。少したくましくなったように見えたけど。
それよりさ。カノンには僕から何か贈り物をしたいんだ。その……君からの指輪だけじゃなく」
「おっと! そうだった。悪いな。あれは仲間の証だと思ってくれ。リルはこの後フェルドナージュ様の
許へ向かうんだよな」
「ここからは分断作業。あの子を助けるんだよね。確かにフェルドナージュ様の手助けもあるけど。
そっちはアルカーンもいるし、フェドラートもいるから。アルカーンには詳しい事情を
僕から話しておくよ」
「いつもすまないな。助かるよ。それでリル。あのさ、俺経験なくて。色々教えてくれないか。
女子の扱いとか……」
「ぼ、僕だってないよ! 二人でちょっと考えようか。色々と……」
「あ、ああ。そうだな。あんまり話せるやつがいなくて。こういうことは……シュウは真面目すぎるし
ベルドは詳しそうだけどそれどころじゃないくらい新装備に夢中そうで」
「僕もプロメテウスの目にちょっと夢中だけど。でもカノンが大事だから……ね」
そう、俺たちは男にしか出来ない語らいをしたんだ。
何をとは言うまい。これは男同士にしかわからない、大事な話だ。
そう。女子には女子にしか出来ない話があるだろう。
男には男同士にしか出来ない話合いってのがある。
神聖なる大切な時間がな!




