第三百八十四話 シフティス大陸のどこを目指す?
温泉へゆっくり歩きながら上空を見ると、セーレがビュンビュン飛んでいる。
あいつとも後で話さないといけないんだった。戻って来てからも忙しいな。
「それで、どこから話したらいいかしらね。まず位置だけれど、少し遠いわ。船での移動は不可能。
あんたあの上のやつに乗って行こうとしてるでしょうけど、それだと少人数になるわね」
「ああ。船では難しいってことは海嘯か岩礁あたりか?」
「そうね。まず港がないのよ。それと強風。それにモンスターも多いわ」
「あのハクレイって爺さんは馬に乗ってここまで来たようだが、どうやったんだ?」
「憶測だけれど、転移魔法じゃないかしら。見てないからなんとも言えないわね」
「あっとるぞい。転移魔法じゃ。戻りには使えんから連絡は手紙の予定だったんじゃが」
「ふーん。そうだったのか……っておい爺さん。俺たち温泉に向かってるんだけど」
「何言っとる。わしをあんなところに置いていきよって。見てたら蹴り飛ばされたわい」
「ラーラを見ておかなくていいのか? それにこっちの温泉にはさすがに入れられないぞ……」
「いやーのぅ。わしゃー齢七十。最近目がよー見えんくなってのう。男か女かなぞわからんしのーう
やはり騎士としては混浴で不埒な者がおらぬか見張る必要もあるじゃろうし」
「それを俺の前で言うか……。うちの女性陣は口より先に手か術が飛んでくる。気を付けてくれよ」
「……それで、続きをいいかしらね。シフティス大陸には無数の王国、皇国、共和国があるわ。そして
それぞれに領地が決まってるの。いわゆる上流貴族ってやつね」
「上流貴族か。前世では憲法でその言い方を禁じていたが、未だに多く残っていたな。国民の大半は
気付いていないようだったが」
「へぇ。あんたがいた世界にもいたのね。そっちはどうか知らないけど、こっちはろくでもないのが多い
わね。奴隷制度も未だにあるし。まぁ安心できる相手もいるのだけれど」
「そうじゃな。わしのお仕えしている国であれば受け入れは容易じゃろう。ハーヴァル殿への言伝の件
もある。わしをここに住まわせてくれるなら協力しようかの」
「爺さんに協力してもらわなくても平気よ。ちゃんと知り合いがいるの。私が小さい時に知り合った
ちょっとした仲間がね」
「ライラロさんはそっち出身なのか?」
「違うわ。奴隷よその子は。あえて奴隷として生きる道を選んだといった方が正しいかしら」
「……奴隷として生きる道……か。もしかすると俺のいた国でいうメイドみたいなものなのかな」
「領主の世話係をしているわね。ちゃんと信頼のおける領主よ。ヴァン・ヘナードっていうね」
「ヴァン殿じゃと? お主ヴァン殿を知っておるのか?」
「ええ。あんたも知ってるの? まぁ有名だけれど」
「これはたまげた。賢老主ヴァン・ヘナード。シフティス大陸三英雄の一人じゃぞ」
「うーん。私からすればただのエロ親父ね。爺さんといい勝負じゃない?」
「この世界の爺さんはみんなエロ親父なのか……はぁ。三人娘の行動が心配だな」
「私はやられる前に防ぐ手段があるからねぇ。ダーリン以外に触られたくないしぃ」
「それで、そのヴァン・ヘナードって人はシフティス大陸のどのあたりにいるんだ?」
「北東なのよね。トリノポートが最南だとして私たちがいるジャンカ村周辺はトリノポートの東側の端。
ここから北東にかなり進むと七壁神の塔というのが立っているのが見えてくるの。そこから北へさらに
進むとシフティス大陸の南端が見えてくるはずよ。まずはそこを目指しましょう。
それから当然だけどセーレでの移動はそこまで。領地を勝手にあんな馬で飛んでたら、国に指名手配されるわ」
「そりゃそうだよな……セーレに乗ってひとっ飛びとはいかないよな……かなりの大冒険になりそうだ」
「あの飛ぶ馬じゃな。あんな怪しい馬が飛んでいたら、王国中大騒ぎじゃ。馬車でも手配して進む方が
よいが……山賊や盗賊なども多い。下手すれば軍隊同士の争いに巻き込まれる可能性もあるぞ」
「前途多難だな。しかし色々聞けて助かったよ。それよりまずはメルザの里帰りをしようと思うんだ」
「あんた……あの子を本当にあそこへ連れてくつもりなの?」
「……ああ。俺はメルザを娶ったんだ。男としてのケジメはつけるべきだろう」
「はぁん。それ、ベルディスに絶対言わせるわ! 女としては絶対聞きたい台詞の中の十本に入るわ!」
「うむうむ。わしも昔妻の親に言うたもんじゃのぅ」
「爺さん、あんた独り身って言わなかったか?」
「そうだったかのう。わしゃ齢七十じゃし」
この爺さん、呆けてるのか……参ったな。それにしてもシフティス大陸、一筋縄ではいかないか。




