第三百八十二話 あだ名をつけるハクレイ
泉からルーンの町に戻ると、ハクレイは腰を抜かした。
「ななな、何じゃここは。確かに泉しかなかったのに。ここはあの世か?」
「ようこそルーンの町へ。そうだな、ここは……」
「おーいルイン! 俺の新しい芸を見てくれ! な? いいだろ? な?」
浮遊する骨レウスさんの首がぽろっととれてケタケタと笑う。
「どうだ? 一発芸最高だろ? な?」
サムズアップしながらケタケタ笑うレウスさん。怖いよ。
「あ、アンデッドじゃ! 街中にモンスターが! 危険じゃ! 黄泉の国じゃ!」
「いや、仲間のレウスさんです。こう見えて割といいやつ……だった気もするんだけど」
「だっはっは! ルインは相変わらず面白いな、な? あっちでお嬢さん方が待ってたぞ?」
「温泉に入りたいんだよ。そろそろ空いてるか?」
「モンスター用の方なら空いてるぞ、あっちいこうぜ? な?」
「それも悪くないか。静かに入りたいし、あっち混浴だからな」
「ここ、混浴じゃと? 騎士たるもの、女子供と風呂につかるなどできん! いやできん!
いやできーん!」
「いやー誰も入っていいとは、言ってないぞー-」
「さぁ案内せい。そのモンスター用の風呂とやらにじゃ! モンスターは退治してくれる!」
「いや、全部仲間だから。退治されたら俺が困るわ!」
今はいないがフェルドナージュ様がいる頃は、カドモスやピュトンが浮いてたりしたんだよな。
あの二匹がいないなら、広々と使えるかな。
断固として入る気満々のハクレイとラーラを伴い、モンスター用の温泉へと向かった。
――――空いていると思ったのだが。
「そうだった。リンドヴルムがこの町に居ついたんだった……」
「ギュイオーーーン!」
「わわ、食べるなよ! もう愛情表現はわかったから! 落ち着けって!」
「なんとー--! 伝説の竜かこやつは! なんというでかさじゃー!」
「やっぱり爺さんにこの町は刺激的すぎたか……そりゃそうだ。既にテーマパークもびっくりだよ
この場所はな……モンスター牧場まであるし」
「ルイーー」
「ぱーみゅ!」
「お、パモとルーも来てたのか。しばらく風呂に入れなかったもんな。ゆっくりしよう」
「ルイン殿」
「何だい爺さん。竜と一緒で悪いな」
「ルル、ルイン殿! そそ、その生物はもしやエンシェントパルームでは?」
「ああ。パモだ。可愛いだろ?」
「絶滅したと思っていた伝説の生物が目の前に……わしゃたまげたわい」
そうか。パモは珍しいんだよな。今や一家に一台パモの時代だっていうのに。
可愛いだけじゃない。収納機能までついてるんだぞ! うちのマスコットは優秀です。
「しかしリンドヴルムはでかいな。この場所、もっと拡張が必要か……」
「ルイン殿」
「何だよ爺さん」
「わしゃ余生をここで過ごしたいんじゃが」
「そりゃ構わないけど、唐突だな。働かざる者食うべからずだぞ、爺さん」
「わしゃキリキリ働くわい! この温泉とやら……最高じゃ。わしゃここで動物の世話をしたいんじゃ」
「あんた、動物好きなのか。それでラーラに?」
「いや、わしゃ騎士なんじゃが齢七十。さすがに前線には立てなくてのう。シフティス大陸は戦いの日々。
少々疲れたんじゃ」
「そうか……戦いの日々ね……うちのやつらが聞いたら喜びそうだな。血の気の多い奴がおおくて」
「侮ってはいかん。シフティス大陸は過酷じゃ。トリノポート辺りから来た者は大抵苦しむ事になる。
貴族社会故上下関係も厳しいんじゃ。わしの主はよき賢人であったが。ベルディス氏と交流があっての」
「師匠とか?」
「お主、ベルディス殿の弟子だったのか? わしゃお会いしたことは無いが、噂は聞いておる。
たった一人でオーク数千体を切り伏せたとか、ウェアウルフと一人でやり合うとか、神と契りを
交わしたなどというふざけた噂まである」
「うーん、多分だけど全部事実なんじゃないか。師匠はぶっ飛んで強いからな。ところで爺さんは
ハーヴァルの家に仕えてるわけじゃないのか?」
「いや違うぞい。わしとハーヴァルの家の者とは血縁にあたる。わしは騎士を引退しておる身故、動き
やすいからの。言伝役に適任だったんじゃよ。独り身故、余生を過ごす場所を求めておった。
実にありがたい事じゃ」
「まだ決まったわけじゃないが……メルザならいいぞって言うだけだろうな。俺も別に構わないよ。
こいつらに変なあだ名つけなければな!」
「パーミュ!」
「ルイー」
「ギュイオーン!」
「ふうむ。白ふんどし、もっさり大五郎、いぬっころでどうじゃ?」
「ぱーみゅう!」
「ルーーピィーーー!」
「ギャアルウウウウウウ!」
「うおお、めちゃくちゃ怒ったじゃないか! ルー! ブレスはやめろ! 温泉が破壊される!」
強烈なあだ名をつける老人、ハクレイが俺たちの仲間になった!
そこら中変なあだ名をつけるのはやめて欲しい……。




