第三百七十五話 見えていなくても、心地いいんだ。
真っ暗だな。またやっちゃったか。けど、師匠には確実に届いた。その自信はある。
俺を鍛えてくれた師匠。精神的支柱だった。
最初は少し怖いと思った。ウェアウルフなんてお話しの中でしか知らないし、実際見るのと
そうでないのとでは大違いだったよ。
でも話を聞いていって感じたんだ。
――――なんて優しい人なんだろうってさ。だってそうだろ?
どこの馬の骨ともわからない俺たちに、武器の使い方を教えてくれた。
装備を見繕ってくれて。稽古をつけてくれてさ。
話し方は怖いけどさ。嬉しかったんだ。生まれて初めてだったよ。師匠と呼ぼうなんてさ。
ベルローゼ先生とは違う部分、それはやっぱり誰に対しても師匠は優しいってところかな。
そんな優しすぎる師匠の気持ちに、どうしても応えたかったんだ。
俺の今の全力はこれです! ってさ。
師匠は大丈夫かな。俺の目……また開くかな。
試合は、ジェネストの勝ちだろう。あいつを取り込んでしまった以上、俺がしっかりしてないと
申し訳が立たないし。
それに、ブレディーのこともだ。
……寝てる場合じゃない。それでも今は――――。
「みんなの手、心地いいよ。ありがとう」
「君ってやつは本当に心配ばかりかけるよね」
「あー-、ずるいぞリル! 起きたら俺様が最初に話そうとしてたのにー!」
「本当よお兄ちゃん! 妻である私が先のはずだったのに!」
「何言ってるの? 誰の膝の上にのせてるとおもってるわけ?」
「あんたはその胸が邪魔でルインの顔がみえないのよ!」
「なんですって?」
「なによ!」
「やかましいっしょ! せっかくボロボロの手に包帯巻いてるのに邪魔しないでほしいっしょ」
「あー、君たちはルインの事になるとこれだから……」
「イーちゃんはだまってるっしょ!」
「ははは……本当落ち着くわ。ここが俺の居場所だよな。悪いみんな、目が見えないんだ」
「わかってるぞ。俺様がちゃんと手引くから……さ。その、ルイン。俺様の手が
もう一本あったら嬉しいか?」
「どういうことだ? そりゃメルザの体が治るんなら嬉しいに決まってるだろ?」
「そっか。そうだよな。それで暫く会えないっていったら?」
「うん? 入院でもするってことか? 治療?」
「ニュウインってなんdな? 喰えるのか?」
「……まぁある意味入院中はありがたい事に食べ物が運ばれてくるけどさ……」
「そんでよ。俺様半年間手をうえつけんのにいなくなるらしーんだよ。それで……」
「ちょ、ちょっと待てメルザ。話がわからない上に物騒だ。誰か説明してくれるか」
俺は見えない目で小首を傾げる。一体何の話だ。
話を聞いていたイーファたちが代わりに説明してくれる。俺が倒れてからの事なども含めて。
成程、そうなっていたのか。随分とまぁおかしな展開になったものだ。
「ブネが一緒にいるってことは、メルザの意識が無くても常に、メルザと一緒のようなものか。
つまり暫く俺はブネを死ぬ気で守ればいいんだよな?」
「そうなるな。ついでに貴様にはエプタを付ける事になっている。あいつもなぜか
その娘を守りたいようだから、このブネはなぜかエプタにも守られるようだぞ……解せぬ」
「それはなんか……少し面白そうな状況だな。師匠やライラロさんも無事そうでよかったよ。
しかし……師匠が別の神の許で修行とは……またとんでもなく強くなって戻ってきそうだ」
「他人事のようだがお主も後二年で数倍は強くならねばな。
さもなくばこのブネがどやされる事になる。何をしていたのかと」
「あー……やっぱそうなるのか。俺、強制参加なのか。まぁ嫌でも強くなるだろう。
なにせやらないといけないことが盛りだくさんだ。メルザの里帰りは半年後になったが……」
「ルイン。僕とカノンはフェルドナージュ様の許へ向かう。どうにも地底の状況がよくないんだ」
「ああ。俺もすぐ向かいたい所だが、地上の用事を済ませてからになる。
ちょうどいい機会だ。みんな集めてくれるか? これからの事を話したいんだ」
うちの仲間全員を見えない俺の許へ集めてもらい、これからの事を話し合う事にした。




