第三百四十六話 第二試合 ベルド、シュウ、ミリル対エプタ、オクト、エンネア
「ベルド、シュウ、ミリル。あの中で恐らく一番危険なのはエプタだ。
俺に気づかれないよう……」
「ルイン。それを言われたら面白くないだろう? わからない未知なる相手と死闘できる機会は少ないんだ。
君と戦うのだって内容がわからないからこそ楽しみにしているんだよ」
「……そうか。わかった、俺も久しぶりの三人との試合、楽しみにしているよ」
そう言い残し、見ていた席に戻ろうとしたが、そこにはサラが座っている。
あのー、俺の座る場所がないんですけど。
こっちを見ながら膝をパンパンとしているが、どういう意味かわからないので仕方なく
ブネの横に腕を組み立った。
「なぁ、イネービュも言っていたが、やっぱりあいつは……エプタはやばいんだよな」
「貴様は何を言っている。幾ら力が制限されているとはいえ、エプタ、オクト、エンネア。
あれらの試練を思い返してみろ」
「試練? 第七から第九までの試練か? 確かエプタには人の醜さを矢で貫かれながら見せられ、オクト
には三匹の幻影竜と対峙させられた。そしてエンネアは……強さとは何かを問われた」
「その中で貴様がもっとも難しいと感じたのがエプタなのだろう。だからこそやつに一目置き、恐怖を
感じているのかもしれん。つまり……イネービュ様の分体、神の遣いである彼らにおいて、貴様が
もっとも欠けているもの。それがエプタだ」
「……どういう事だ。エプタの試練が最も脅威じゃないのか?」
「見ればわかるだろう。人によって脅威となるものは違う。貴様が……いや、人が最も弱いのは心。
神とは決定的に違うそれが、弱点となり得る」
「イネービュやブネにはわからないかもしれない。でも……他者を、まったく知らない人にだって慈悲や
希望を与えられる。対話さえ、意思疎通さえできればそれは可能じゃないか。どんな人にだって悩みや
苦しみ、やるせない出来事があるかもしれない。人は醜いものばかりじゃないんだから」
「……そうだな。人以外の生物であっても、共食いさえする。あらゆる状況下で尚、冷静に判断できる
種族。それが人だ」
「だからさ。俺はエプタを脅威ではなく、悲しいという感情で見てしまった。あいつが人に向ける
殺意はやばいと思った」
「……そろそろ試合が始まる。人によっての脅威の違いをよく見るがいい。それに……少しエプタは
変えられたようだな」
「楽しみだなー、ベルドたち、強くなったんだよな?」
「メルザ!? いつのまに……まるで気づかなかったぞ」
「それは私の腕を所持する娘だからな。気づかなくても無理はあるまい」
にしても気配がなさすぎだろ。同化しているのか? って思うほどだ。
そう考えていたら、ライラロさんがしゃべり出した。
「それじゃ第二試合、始めるわよ! ベルド、シュウ、ミリル対エプタ、オクト、エンネア!
準備はいいかしら? はじめ!」
ライラロさんの合図と共にシュウとベルドが左右分かれて囲むように突っ込んでいく。
随分と動きが速いしいい動きだ。しかも見事に息があった歩幅だ。相当練習を重ねた証拠だろう。
イネービュの目がキラキラ輝いているように見える。少し前のめりだ。
「……へぇ。人にしてはやるじゃないか。気に入らねえけどな」
「まずは様子見とするか」
「そうだな。イネービュ様もお楽しみのようだ」
あちらは動かない。明らかにチャンスだ。先頭にエプタ、後方にオクトとエンネアが構えている。
ミリルは……上空に飛翔し、海面ギリギリ付近から斜めに鎗を向けている。
シュウとベルドは……エプタではなくそのまま後方へ左右から攻めている。
「参ります! ブラキュリアスピア! ルピィーーー!」
ミリルの掛け声とともに、一斉に戦闘が始まった。




