第三百二十六話 着替える部屋は間違えないで!
「どうした。何を呆けておる」
「あ、ああ。少し想像してたのと違って」
「ここから貴様は歩いて向かえ。そのメロンパイとやら、二つ程もらっていくぞ」
「いいのか? こんな包んでもいないやつで」
「構わぬ。人の子が一生懸命作ったものであればなんでもよいのだ」
空中に二個のメロンパイが浮かび上がり、ブネと一緒に飛んでいった。
まったくふざけてる。さっさと地上に戻ってノーマルな感覚を取り戻したいよ。
ここの重力は少し軽めな気がする。しかし海底であることは間違いないだろう。
ここは見渡す限り海だ。その中に拾い空間……といっても緑などはちゃんとある。
道は石畳だが、普通の石なんかじゃない。歩くと波紋がはしる。
あちこちきょろきょろしながら見ていると……遠目に人が見えた。
「るいーーーん! やっと来たんだね。待ってたよ!」
「イビン? お前もここに連れてこられてたのか」
「僕だけじゃないよ。町のほとんどの人が連れてこられちゃったみたい。みんなすごく驚いているよ」
「確かに神殿で連れて来なさいって言ってたけどそんなにか」
「それでね、あっちで着付けをするらしいから、ルインが来たら連れてくるようにいわれてたんだ。いこ!」
「わかった……おいおい、そんなに引っ張るなって」
「だって、またどこか行っちゃいそうで。今度は僕もついていくから! 絶対に!」
「へぇ。イビン、随分鍛えたんだな。体つきが変わったんじゃないか?」
「うん。僕も頑張ってるんだよ。まだまだ弱いけどさ」
「そんなイビンにいい言葉を教えてやろう。弱くていい。勝てないくらいの相手がいる方が伸びるのさ」
「え? だって強くないとみんなを守れないよ?」
「守る方と一緒に強くなって戦えばいいだろ。自分だけでどうにかなんて、大抵できないもんだ」
話しながらイビンに案内され、中に入った。
「うわあーーーーーー!」
「うおーーーーーーーー!」
『失礼しました!』
「あら、大胆ね。せっかくのお披露目を待てないなんて」
「おいイビン! どうなってる!」
「ごごごごめんよー! みんな似た建物だから間違えちゃったよぉ!」
女子の着替え部屋に堂々と勢いよく乗り込んだ俺たち。
完全に油断していた。
頼むよイビン……永久的にいじられるやつだぞ、あれ。
「こ、こっちだったよ。今度は大丈夫」
「はぁ。なんかもう疲れたよ俺は。あ、メロンパイ焼いてもってきたんだよ。イビンも食うか?」
「なぁに、それ? へー、美味しそうだね。でもそんなに沢山ないみたいだから、女性陣にあげようよ。
そうしないと後で僕、吊るされるよね」
「そうだった……危うく十字架を手渡すところだった。すまん、今度ちゃんと用意するよ……そういえば
イーファとニンファ、ミリルもきてるのかい?」
「うん、来てるよ。僕の知ってる人で来れないのはフェルドナージュ様にフェドラートさん、アルカーン
さんにアネスタさん、それと本物のエッジマール王子かなぁ?」
「影武者の方は来てるのか?」
「うん。一人だけだけどね。おとなしくはしてるよ。報告用なのかなぁ? それとメルザちゃんが許可を
出してくれたから、ジャンカの村にいた人も中に入れてね。ベルドのお母さんも来てるよ」
「死流七支の一人か。ご主人はいないのか?」
「それが、行方不明なんだって。他の息子さんたちはカッツェルに買い出しにいってるけどね」
「そうか……。それでさ、イビン。俺、本当に結婚するのか?」
「え?」
そう、俺はルーンの町でひっそりメルザと結婚してから四層に向かうつもりだったんだ。
結婚は勢いっていうけど、どんな勢いだよ、これは……。




