第三百二十二話 結婚の形
……話はとんでもなくねじ曲がった方向に広まっていたんだ。
「みんな、結婚おめでとう! お前たち全員の門出を祝って、ルイン一家の結婚式を!」
「はい?」
「いやー、実にめでたい。こんな多くの結婚人数で結婚するとは。
総勢何名だぁ? ルインさん、リルさん、サラさん、カノンちゃん、イーファさん、メルザちゃん、ファナちゃん、パモちゃん、ドーグル先生、レウスさん、それに闇の賢者様に従者ドルドー、おや、もう一人仮面の女性まで!? 一着追加だ!」
「待ってkれー、フォモルさん、待ってくれー!」
「おいフォニー! この方の体系に合わせて急いで一着こしらえるぞ!」
「わかった、父さん!」
「うおおおおおお! なんだこれは、新しい戦場か!?」
『やったわ!』
「え? 俺様、ルインと……」
「なぁルイン? な? 俺と結婚してくれるんだよな? な?」
「ふうむ結婚とは、また新たな門出を進む者の称号であるな」
「私には既に娘もいるのだが。未亡人ではあるがな」
「僕はカノンと……」
「私もリルさんと……でも、一緒か、これでも。うふふ」
「そ、そうだね。結局僕らはずっと一緒。結婚だってこういう形でもいいのかもしれないね」
「俺様、ルインと……でもそーだよな! 今までも、これからも。ずっとずっと、みんなと一緒がいい!
でもさ、俺様にも一つだけ、ルインを独り占めしたいとこがあるんだ」
メルザはそういって、ルインの手をつかんだ。
「ここは、譲れないぜ? な、ルイン! ニハハ!」
「はぁ。なんか俺が前世で想像するような結婚とはまるで違いそうだが……そうだな。
俺はメルザの事、大好きだし、一生大切にしたいと思っている。でも、ここにいるこいつら全員、一生
大切にしたいやつらなんだ。それに俺たちもう、一緒に暮らしてるんだよな、封印で」
「俺様は入ってないんだよな。そこには」
「だからこそ、お前は特別なんじゃないか? 俺の一部ではない、本当の一部になる結婚が」
「そうか! 俺様、特別なんだな。やったぜ!」
「さぁルインの兄ちゃんよ。仮面の人以外の衣服は用意してある。さっさと着替えさせな。
それからよ。これはこの町に住む全員の協力を仰いで作ったあんたとメルザちゃんが身に着けるべき宝飾だ。
戻ったら渡す予定だったんだ。受け取ってくれ。指輪はサイズを測って調整するからよ」
「フォモルさん。みんな……いいんですか? 立派なルーニーの胸飾りだ」
「ああ。あいつ今頃アルカーンのとこに届いたのかな? 元気にしてるかなー」
「そうだな。きっと戻って来るさ。そーいやブネがここに来ているはずなんだが、見なかったか?」
「あのおっかない顔したお姉さんなら、ずっと温泉に入ってるぞ」
「ハーヴァルさん! ご無沙汰しております。ありがとうございます! 温泉、行ってくるか」
「おう、戻って来たばかりだったしな。さぁみんな式の準備に戻った戻った!」
こうして一人、また一人と解散していく。
「しかしすげー大事になったな。でも俺様、あれだけはやってみてーんだ。純白のドレス着てよ。
チュー……」
言いかけてボンっと赤くなるメルザ。
そりゃまぁ、女性の憧れなシチュエーションだよな。
「わ、わかった。とりあえずどんな式になるかものすごーーく不安だが、やれるように努力しよう……」
「んじゃ、飯も食ったし、温泉にいこーぜ! みんなもいくか?」
「私たちはもう入った後なのよね。もう一回入ってもいいんだけど、ちょっと準備があるのよね」
「そうっしょ。王様連れてフェルス皇国にニンファちゃん呼びにいってくるっしょ」
「僕とカノンとサラは、奈落へ行く支度をしないとね。フェルドナージュ様を助けないと」
「そうだ! それを話しておかないと。どうやらアルカーンの話だと……」
アルカーンから聞いた名楽の現状を話すと、リルは驚いていた。
「大分状況が変わってきてるね。フェルドナーガ……ついに動き出したのか」
「母親の仇なんだろう?」
「僕はあまり覚えていないんだ。けどアルカーンはきっと鮮明に覚えているはずだよ。
フェルドナージュ様も」
「恐ろしく強い妖魔……ただそれだけしかわからないな。そいつはなぜフェルス皇国にいないんだ?」
「時の呪。それによりどこに向かおうとも数日後には元の場所へ戻されるんだよ。
母上の最後の呪いでね」
「だからここまでは来れないってことか……。つまり来れたらその呪いが」
「解けた異になるね。でもまだその知らせはない」
「話に聞く限り野望が強い奴だと思ったが、動けないのはそういう理由があったからか……」
「けれど軍が動いたなら、或いは……さ、続きはまた今度にして。僕はどのみち妖魔国に行って情報を
仕入れてくるよ」
「ああ。なんだか結婚式で騒がしくなってしまってすまない」
「ううん。僕も安心しているんだ。君が主のメルザだけを連れて結婚してしまったら、兄としては困って
しまうからね」
「ははは、俺もまさかこんな事になるとは。でも全員で結婚なら俺にあってるだろ?
メルザは大切だが、お前たち全員同じくらい大切なんだからさ」
「そうだね。僕もカノンは大事だけど、それと同じくらい君が大切さ。それじゃ、また後で!」
拳を重ねてリルと別れた。そう、結婚なんて形を取らなくても俺たちはもう家族だ。
どの場所にいようとも、俺たちは道をたがえる事なんてない。
これからもずっと一緒だ……というのは男側の意見なんだろうな。
この世界ではどうにも一夫多妻、一妻多夫が当たり前の世界らしいが……。
……こうして一時的にルーンの町へと戻った俺たちは、みなに無事を告げ、はちゃめちゃな結婚式へ
進む事になったのであった。




