間話 待ち人の来客
桜の木の下に一人、見目麗しき妖魔がいる。
漆黒の長髪の一部分には、星のように輝きを放ち、スラっとした魅惑的な体つき。
また、女たちが持ち寄ってきたアーティファクトの衣装の中から、好きなものを一つ選んだ。
それは形が崩れることのない、軽装。黒き衣というそれには、美しい星の刺繍が施された。
受け渡した女は歓喜のあまり卒倒してしまったので、名前すら知らない。
フェルス皇国以外でも有名な彼は、男女問わず魅了してしまう。
そんな彼にも、苦手なものがあった。
「……こんな海底にまで来るのだな。アルヒル」
「それが役目さぁーー。アルカーンの最高傑作なのにー-。君のところへしか送れないなんてねー-」
「それ以上近づくな。まったく。この形状、どうにかならなかったのか?」
「そう言われてもねー-。でもさー-、多分アルカーンはー-、君に負けたくないんだよー-」
「いやがらせにもほどがある。俺が苦手なものを知っていてこんなものを作るとは」
アルヒルと呼ばれたそれは、どうみてもでかいヒルだった。
ベルローゼが苦手とするのも無理はない。かなりの大型で奇怪な形だ。
「どうしてもー-、作り変えたいなら――、彼に言ってよねー-」
「どうせ俺が言ってもきかないだろう。そうだ、あいつに頼んで作り変えさせるか。
ルインが言えば少しは耳を貸すだろう」
「ルインー-、あって――みたいけどー-、いないのー-?」
「今はな。それよりさっさと要件を言って消えろ。せっかくいい所だったのに邪魔をするな」
「アルカーンからー-、こちらの状況がー-、思わしくないー-、なるべくー-、早く戻れー-、って」
「それだけか? 他にもあるだろう。言い忘れのあいつのことだ」
「うんー-、フェルドナーガがー-、動き出してー-、シュタルターク地方をー-、制圧したよー-」
「……そうか。しかしフェルス皇国へは迫っていないのだな」
「そりゃー-、フェルス皇国はー-、フェルドナージュ様がいなくてもー-、そう簡単に落とせないしー-」
「お前、ここに残れるか? ルインが戻ってから出発しようと思っていたが、そうもいっていられなそうだ」
「無理だよー-、これをー-、使いなよー-」
ぺいっ……と、ねっとりとした紙をアルヒルは吐き出した。
「……ふざけているのか」
「ひどいよー-。いつでもまじめだよーー」
「泉の前の木にでも掘っていくか……俺に僅かに残った親族。しかもベルー家直属とはな。
運命……いや、神のいたずらか。ふっ……」
フォーサイトを取り出し、桜の木へメッセージを刻む。
それにはこう刻まれていた。
【更に精進しろ。アトアクルークの地できっと再び会うはずだ。ベルーロゼよりベリアールへ】




