第二百七十話 下り坂の攻防
「コウテイ、アデリー、頼むぞ!」
「ウェーーーイ!」
「ウェィ」
リアカーに乗り込み、合図をだすと、コウテイはゆっくり動き出す。
アデリーもそれに追随する形で動き出した。
下り坂に差し掛かると勢いがつき、速度が上がる。ここから先はどうなっているのだろう。
「貴様のこの術は大したものだ。氷や雪といった術の使い手は多くない。その分野で伸ばしていったらどうだ」
「そうしたいのはやまやまなんですが、あまり氷や雪に触れる機会がなくて。地上や妖魔の国って雪に
溢れた場所とかあったりするんですか?」
「俺様の住んでたとこ、多分寒いところだったぞ。年に何回かは大雪で外にでられねーんだ」
「妖魔の国には極寒の地がある。強いモンスターがいるから腕を磨くにはもってこいだな」
地上にも、地底にも存在するのか。よりイメージするにはそういった場所にも行く必要があるな。
「ツイン、そろそろ、くる。危険。対処、難しい。ブレディー、力、必要?」
「いいんすか? 二層もやたら強いのがいるっすよ?」
「神の空間、安全。安心、休める」
「まぁそうっすね。いざってときはブレディーにお願いするっすかね」
「ドルドー、働く。犠牲。生贄」
「だはー! あっしを捧げても見逃してくれないっすよ!」
「できる事なら俺たちの力でどうにかしたいが……このリアカーの中だと遠距離攻撃だな。
ファナ! 出てきて弓攻撃してもらえるか? メルザも風術でフォローしてもらいたいんだが」
「いいわよ。ただここだと支えてくれないとうまくうてないの。お願いできる?」
「ああ。メルザはファナの前で、ファナの放った矢を加速させてくれ! コンビプレイだ!」
ファナを中心に、メルザが前、俺が後ろにまわり脇をささえ……ポヨンッ……ってどんだけでかいんだよ!
「……すまん、ファナ。腰でいいか?」
「あら、前をしっかり支えてほしかったけど……きゃっ、メルザの頭が」
すっぽり胸に収納されたメルザの頭。育ちすぎじゃありませんかね。
「何喰ったらこんなでかくなるんだ? 俺様一杯食べてるのにちっとも大きくならねーしよ。ずるい」
「案外邪魔なのよ、これ。重いから肩がこるし」
「女子が言ってみたいシリーズその一だぞ、それ……」
腰部分をしっかり押さえ、俺も赤星が撃てるように構える。
先生は相変わらず様子見か。これも修行のうちだな!
「前方からターゲットの反応複数……なんだありゃ。タツノオトシゴか?」
「リュウグウツカイ。危険、水術、使う。いっぱい」
「あっしが盾で少し防ぐっすから、頑張ってくださいよ!」
「僕らはいいのかい?」
「リルたちは出ると置いていかれる! ドーグル、念動力でサポートを頼めるか?」
「ああ。もちろんだ。わらも随分寝てしまった。きちんと活躍しよう」
ファナがかなり遠目に向けて矢を放つ。それをメルザが風斗でコントロール。さらにその矢を
ドーグルが微調整してリュウグウツカイへあてていく。
高速かつ的確な矢は次々とリュウグウツカイを射抜いていく。これぞナイス連携! といいたい。
メルザとファナはもう随分と長い付き合いだ。こうしてみてると姉妹のように見える。もちろんメルザが
妹って感じだな。
「赤星の矢・速! くそ、ビノータスの技は使い勝手がいいが、連射がきかない! 何かいい案を……そうだ!」
昔三国志で読んだアレを試してみよう。諸葛亮さんの知恵、お借りします。
実際そうだったか知らないけど!
「赤星の連弩! 三本!」
俺は筒を持つ形で三本の赤星の矢を作り、バリスタを構える要領で射出する。これだけだと
直線にしか狙えないが……「風臥斗!」「念動力、分散!」
メルザの風術とドーグルの念動力でバラバラかつ速度を上げて的確にリュウグウツカイを射抜いた。
まだ三本だが、ビノータスの技が格段に進化した。
弾丸みたいに打ち出せればいいが、そんなもの、平和な日本では触れない。現実味がない。
そこら中に転がってるのはエアガンやガスガンと水鉄砲くらい……いや、待てよ。
エアガン、エアガンか……それならイメージ出来る。
ここで一段上に行かないと、いつまでたっても遠距離で戦えない!
昔買った事があるあれは確か……「妖雪造形術、デザートイーグル、妖氷造形術、ビービー弾」
それぞれ別に用意したそれらを組み合わせ、かちりとはめる。
想像通りだが、果たしてどうか。
俺が造ったのは雪と氷のコラボレート作品、エアガン。威力こそないだろうが、遠距離攻撃の試作
として、即席でつくってみた。
後は……「メルザ、俺が今から小さい粒を敵にうつ。それを風斗で加速できるか?」
「やってみる!」
「ファナもこの武器を見ていてくれ。もしかしたらファナもこれに似た装備に変身出来るかもしれない」
「わかったわ。一体どんなものなのかしら」
狙いをリュウグウツカイに定めてトリガーを引いた。パシュンっと氷の玉が打ち出される。
「風臥斗! ちいせぇけど凄い勢いだ!」
「念動力……いや、まにあわん」
メルザの風臥斗で一気に加速して、リュウグウツカイを貫通した!
さっきから矢が簡単に貫通していたので、こいつくらいならエアガンでも十分だ。
なにせ玉は妖術で作った氷。かなり固い。
しかもこのリュウグウツカイとやら、ちゃんと封印出来たぞ。
「ツイン、凄い。その武器、かっこいい」
「そもそもモデルガンだしな。実際の銃なんて俺には作れないし扱えない。
そういうのはカッコイイ主人公キャラでないと。俺の隣にいるような人が持つべきかな」
ちらりとベルローゼ先生を見る。この武器にかなり興味があるようだ。いいぞ! 先生に覚えてもらおう。
黒星の弾丸とかぶっぱなしたら妖魔ファンが倍になりそうだ。
そう考えていたら……後ろから反応! しかも壁の中だ。なんだ? 何が来る?
壁……え? 壁が来る?
「ツイン。来た。デスウォール。危険。あれ、ブレディーがやる」
「あいつは洒落にならないんすよ! 押しつぶされてぺしゃんこになるっす!」
「ええ? 止める手立ては……」
「最も深き闇、クリムゾン。血の底に在りて歪より生じる力の一旦。
万物在りて己が力を欲するものの意思となれ。
闇の幻魔人クリムゾンダーシュ招来」
「まともに喋った!」
「ご命令を」
なんだこいつは。リアカーの後部に立ち構えている。どこから湧いたんだ?
「デスウォール。来る。破壊、使命」
「仰せのままに」
クリムゾン・ダーシュは十指の剣を持ち、後方に身構える。
「アニヒレーションズ」
十剣を高速回転させ数千回切り刻むと、。追ってくる壁の全面が大きく崩れる。
しかし後方にも壁がまだまだ続き、どんどん迫って来る。
「貫け、深淵シャル・ティー・トランスフィクション!」
十指の剣全てが飛んでいき、ティーの文字になるようクロスしていく。
それらが全て壁を貫通していき、迫る壁を破壊しつくしていった。
「なんてやつだ。強すぎる。あれじゃまるで……」
「面白い、手合わせしてみたいものだ」
そう、黒星の鎌並みの威力だ。それも一つ一つがその威力。つまり先生の鎌五倍分の威力だ。
双鎌だとしても二枚にしかならない。
こいつは相当な強さだ。
「ブレディー、あれは……」
「力の一端。クリムゾン、帰還せよ」
「承知」
その場で膝をつく姿勢を取り、スッと消えた。あれも術だっていうのか。
ブレディー、信じられない実力者だ。
「ウェーーイ!」
「そろそろ下り坂も終わりか。どうにか無事辿り着けたな」
「ツイン、凄い。大変だと、思った。でも、平気。安心」
「ファナとメルザとドーグルのおかげだけどな。他のみんなも活躍したかっただろうけど、今回は
これがベストだろう。レウスさんもおとなしくしててくれたし!」
少ししょげてるレウスさんを感じる。下り坂で飛び出してったらさすがに置いてかれるって。
下り坂を終えたところは少しだけ開けていた。リュウグウツカイも見当たらないし、ここでなら
少し休めそうだ。
再び神の空間を展開して、休息を取ることにした。




