第二百六十八話 二層へ向けて
本日も帰宅後にもう一本アップ予定です。
よろしくお願いいたします。
「全員乗ったわねっす。行ってらっしゃいっすー!」
両手を振り見送るサニダ。でもこれじゃ動かないよな? どうやっていくんだ?
そう思っていたら、トロッコの前側に黒い顔だけ現れる。怖いよ。
「ボロッフォー!」という掛け声とともに、トロッコが走りだす。
それは徐々に上空へと上がり、空を走っていた。ここ、そういえば影重で重さ調節してる
だけなんだよな。しかしこんな重そうな石トロッコが浮くとは。これも単なる石ってわけじゃないのだろう。
空中を走るトロッコから見下ろすラブドス族の町は、物悲しくもあるが、とても美しく見えた。
「なぁブレディー。ここから二層へ向かう道ってのはどこにあってどんな道なんだ?」
「この町の北。地上、デイスペル、わかる? そっち。道、下り道、坂、下る。魔物と」
「へ? 魔物と下るってなんだ?」
「行けば、わかる。説明、難しい」
どうにも嫌な予感がするが……道中安全にメルザを守る方法を考えよう。
そう考えていると、全員目を覚ましたようだった。
「ふあー。君が無理やり戻して真化した後、ひどい眠気に襲われたよ。君の意思の影響なのかなぁ」
「カノンちゃんだけずるいわよ。私も戦いたかったー。絶対強化されてるわ!」
「あんたが変身してる間に全部倒してたわ。遅いのよ」
「固いモンスター相手だと、戦い方がわからないっしょ。考えないと」
「パミュ……」
「私も治療しただけなの。もっと役にたちたかったな」
「ドーグルとスライムはまだ寝てるのか? 俺ももと寝てていいか? な?」
「途端に騒がしくなったっすねぇ。こっちの女の子たちはもっと騒いでいいっすけど」
「賑やか、楽しい。旅。仲間」
「なぁみんな。ここから先、俺を守るよりメルザを守ってくれないか。術が効かない相手は特に危険だ」
「勿論よ。ルインは強いし頑丈だもんね」
「そうね。主ちゃんはあぶなっかしいから」
そんな会話を行っていると、メルザはどことなく寂しそうな雰囲気で見てくる。
先生は外の景色を眺めていた。
「またみんなと会話してるな。俺様も話にまざりてーよ」
「っていってもなぁ。外に会話が聞こえだしたら、騒がしくてしょうがないぞ、きっと」
「ふん。せっかくの景色が台無しになる。よく見てみろ、今のこの場を。
こんな場所、二度と来ることはないかもしれん」
ラブドス族の町を離れ、空を飛ぶトロッコは、町の北へ進行中。
降りてきた地点とは違って開けた空間。でこぼこな灰色の地面に、時折光が見えるのは、壁が
光っているからなのだろうか。草や木などは生えておらず、どこまでも続く灰色の大地。
生物らしきものが確認できるのは、やはり上から落ちてきたものなのだろうか。
「地底にもこれほど生物の気配がない空間は存在しない。こういった空間を想像できる
機会は少ないだろう」
「そうですね。何一つないような世界か。現実ではありえない世界ですね。
空想……ゲームなんかでは構築できても。こういった世界の構築ってアルカーンさんなら
可能なのかな?」
「不可能だな」
「うわぁ!? 毎回突然脅かさないでくださいよ!」
「……アルカーン。貴様、今どこで何をしている。フェルドナージュ様はどうなった」
「厄介な事に巻き込まれた。奈落にいる。フェルドナージュ様は片腕を失った」
「貴様がついていながらなんたる様だ。フェルス皇国はどうするつもりだ」
「俺は命令で別行動中だったのだ。傍にいればこのような結末にはならなかっただろう。
今アルケーに交渉中だが、難航している。やつはタルタロスの命令以外聞かないからな」
「俺もそっちへいるべきだったか……いや、こっちはこっちで海底に連れていかれている
最中だ」
「ああ。ルーニーの目を借りていた。おかしな生物と戦っていたな」
「あれって全部アルカーンさんに見えてるんですか!?」
「見ようと思えば見れる。引き続きそいつを使いこなせ。まだまだ夢幻級の
力、そんなものではない」
なんて人だよまったく。突然話しかけてきたと思ったら、とんでもないことをサラっという。
あんたの妹もびっくりだよ! サラだけにな! ……と心の中でつぶやいた。
「おい、それよりその海底とやらの世界にある鉱物などを取ってこい。きっと面白いものが
つくれるはずだ。いいな」
「わかりましたよ。パモもいるしなるべく持って帰れるようにします。出来れば食べれるものや
種なんかが欲しいんだけど。都合よく洞窟とかあればなぁ……メルザ、ウガヤだせないか?」
「ウガヤ? 喰えるのか、それ」
「……そういえば、話すのすっかり忘れてた。メルザの能力について」
一通り説明したが、メルザは首を傾げていた。
まぁ、自分自身のことなんていきなり言われてもわからないよな。
俺も自分自身のことがよくわからないし。
「そろそろ着いたようだぞ。開けたこの世界、実に壮観だった」
「本当だ、上空まで続く壁に阻まれてますね」
ゆっくりと地面へ下りてゆくトロッコ。着地すると四人のラブドス族に戻った。
「ボロッフォー!」
「ありがとう。とても助かったよ。サニダによろしく言っておいてくれ……といってもつたわらないか」
俺は感謝の意を込めて、一人のラブドス族の手をとり、自分の拳をグーにして、相手の手につけた。
「ボロッフォー!」
「ああ! 少しは伝わったか? 感謝する。またお前らと会えたらいいな!」
四人は再びトロッコを引いて上空へ飛び立ち、町へと戻っていった。




