第二百六十七話 約束
真化すると相当体力を消耗することを改めて認識した。
治療し終えたメルザの横に座り、足を見る。
「メルザ、足大丈夫か? ごめんな。すぐに助けてやれなくて」
「俺様が悪いんだ。もっとしっかりルインを止められてればよ……けどよ、今回のではっきりしたんだ。
やっぱりどんな時でもずっと一緒にいてーんだ。一緒にいながら強くなる方法を考えちゃ……ダメか?」
「そうだな。俺が暴走した時に止められるのは、メルザじゃないとダメなのかもしれない。
そのまま暴れだしたら、誰かを傷つけてしまうだろう。先生もきっと、自分が傷ついてでも
止められる自信があるって意味なんだろうな……だから俺からお願いする。メルザ、そばにいてくれ」
ボンっと赤くなるメルザ。あれ、まずいこと言ったかな?
「わ、私封印に戻ってるね。お二人でどうぞ……」
「カノン? 今のは違うんだ! その……」
「封印、中、他、寝てる。平気」
「……フォローありがとな、ブレディー」
「やっぱり女の子ばっか狙ってるっすね!」
「ドルドーも起きてるのか。そういや二人は寝ないのか?」
「休憩、する。睡眠、ほぼ、必要ない。疲労、意識、落ちる」
「あっしもそうっすね。シャドーダインはそーいうもんなんすよ」
二人と会話してたら、メルザに裾を引っ張られた。
「……おぶってってくれよ。足、まだよく動かせねーんだ」
「ああ。先生たちをあまり待たせられないしな」
「なぁルイン……そのよ。ウォア、チョビック、リーシタ……」
「ぷっ……メルザ、俺の真似したな! ああ、そうだな。そうしよう。ちゃんと俺が言うよ。
ウォア、チョビック、リーシタ!」
「にはは! 面白いな、これ。でもちゃんと、約束したからな!」
「ああ。地上に戻ったらな! さぁ、行こう。海底はまだ一層。俺たちの冒険はまだまだ
これからだぞ!」
「おー! やっといつもの俺様たちらしくなったじゃねーか!」
「遅いぞ貴様ら。どうやらラブドスの町にも甘味はあるらしい。急ぐぞ」
「先生もいつもの先生らしくなりましたね」
この時俺は知らなかった。ドルドーとひっそり会話するブレディーに。
あの言葉の本当の意味を。
……そして俺たちはサニダの後に続いて再び歩き始めた。
――――
「ここが俺様の町よっす!」
「随分と大きな町だが、あまり人の気配がしないな」
その町はどこか物悲しい雰囲気がある、石造りのような町だった。
既に廃墟のような場所。娯楽や刺激なものはないように思える。
無数の石だけが乱立しているように見える。
「なぁサニダ。兄弟や家族は? 何人くらいここに住んでいるんだ?」
「俺様たちは海から生まれるわっす。全員が仲間よっす」
「そうか……人の子ではないか……あの重みから生まれる生物もいrんだな。
ラブドス族は何人くらいいるんだ?」
「五人よっす」
「五人? たった五人だけで暮らしてるのか?」
「昔は沢山いたのっす。みんな違う住処を求めて冒険にでたのよっす」
この場所にいれば無理もないか。どうにかしてルーンの町に連れてこれれば、もっと
楽しい生活ができるかもしれない。そう考えるのはエゴなのだろうか。
「なぁサニダ。もしもだけど、俺たちの住む世界に来れるなら、お前は行きたいと思うか?」
「ここから出る方法なんてあるのっす? 出て行ったみんなはきっともう死んだのよっす」
「ブレディー、そういえばきいてなかったが、帰りはどうやって帰るんだ?」
「知らない。イネービュの許、行った事、ない」
「イネービュ様の許にいくのっす? 信じられないっす。最下層なんて行けるような
場所じゃないわよっす」
「そもそもここにいるだけで信じられないんだよな。海底の世界、第一層。これの存在
だけで頭がどうにかなりそうだし」
「二層、ここと違って、面白い、楽しい。迷路」
「二層まで向かうのに、トリノポート側から来たから移動しないといけないんすよ。
移動手段はもってるっすよね?」
「あるけど、どのくらいかかるんだ? コウテイとアデリー。それに先生の流れ星で行けば
そこまで時間かからずに行けるとは思う」
「みんな本当に行くつもりなのねっす。俺様たちはここで暮らすわっす。それと、仲間の
力を借りれば二層方面まですぐ行けるのっす」
「本当か? すごく助かる……もし来れるような機会があれば、その時は歓迎するよ」
サニダに頭を下げ、町の中へ移動すると、石造りの建物から出てきたのは、サニダより
もっと巨大な棒状の者だった。長い者で四メートル程の高さはあるだろうか。
「ボロッフォー!」
「ボロッフォーが挨拶なのか。ラリホ! みたいなものか?」
「なぁ、俺様、腹へったよー……」
「先生、そういえばさっきの秋刀魚、どうでした? 食べられそう?」
「そいつに渡せば調理してくれるそうだ。ついでにここには相当うまいといっていた
甘味があるらしい。案内してもらうとしよう」
先生が少し急ぎ足だ。そんなに気になるのか? 俺には正直期待できないと思うんだが。
なにせここは海底。甘味とは程遠いところだ。俺の予想では……なのだが。
――――
サニダに案内されて、石の建物の中に入る。思った以上に快適……ではなかった。
石造りだし、地上の人間が快適にいられるわけがない。
細い椅子のようなものに腰をかけて休憩すると、ラブドス族全員でもてなしてくれるようで
調理に向かった。秋刀魚が大量にとれたのはありがたいらしい。
「しかしあれ、剣でも切れないほど固かったんだよな。捌く方法があるのかな?」
「喰えればなんでもいーぞ! もうお腹ペコペコだ」
「こういう時いつも優しく何か出してくれるのはミリルかマーナなんだよなぁ。どっちもいない
のが悲しい」
そう話していると、いい匂いがしてくる。魚の焼けるようなにおいだ。もう下ごしらえを
澄ましたのか?
「さぁ持ってきたわっす。こっちがムナービ。甘いのっす!
こっちがサムダっす。さっきの刀っす」
先生は絶句して固まっている。無理もない。
目の前に出たのは秋刀魚の塩焼きと、甘えびだったのだ……。
どんまい先生! ここは海底だから! ね?
しかし食べたら思いのほか美味しかったのか、表情は変わらないがご機嫌に思える。
俺も食べてみたが結構いける味だった。甘えびというよりカニの甘味に近かった。
イーファとドーグルはまだ目覚めないので、ブレディーに聞いてみたところ、問題ないらしい。
「イーファ、聞いてる。ティソーナ。封印、解く事も。試練、大変。挑む、一人。
ティソーナ、三層。行くのに、迷路」
「そうか、海底に封印されてるんだったよな。三層か。まだ一層でしかもここから移動だろ?
長い旅路になりそうだな」
「大丈夫よっす。外で仲間が出発の準備をしてるわっす。短い間だったけど
ありがとねっす」
「ああ。それとサニダ。頼むからメルザの恰好だけは解除しておいてくれ。取り残していった
気分になる」
「わかってるわっす。近くからいなくなれば維持できないのよっす。それじゃいきましょうっす」
最後の最後まで話しづらいセリフだったが、世話になってしまった。
パモにスッパムだけ出してもらい、置いていくことにした。
外に出ると……石でできたようなトロッコがあった。まさかこれで移動するのか?
「これに乗ってくれれば、後は二層への道まで行けるのっす。皆さん、達者でねっす!」
「少し不安だが……ありがとなサニダ。またどこかで会う事があったら、お礼は必ずするから!」
俺とベルローゼさん、メルザはトロッコもどきに乗り込む。後のメンバーは封印内だ。
これで本当に移動できるのか? 道もよくわからないんだが……。




