第二百六十五話 上空海から落ちるもの
ラブドス族の移動は、人間の徒歩と同じくらいの速度だった。
時折くるっと振り返る顔はメルザそのものなんだが……これではまるで癒されない。
「そういえばまだ、名乗ってなかったなっす! 俺様はサニダっす! 見ての通り可愛い女の子だっす!」
「その喋り方だと全然可愛い女の子じゃない……」
「なっ!? 俺様のしゃべり方、可愛くねーのか?」
「いやそうじゃなくてだな。犬の喋り方と混じってるんだよな」
「ひどいっす! あっしの喋り方、可愛くないっていうんすね!?」
「うん。可愛くない。ドルドー。不細工」
「だはー! 喋り方じゃなくて顔を指摘されたっす! 酷いっす!」
「確かにメルザの顔と声でなんとかっすーって言われたら違和感しかないわね」
「なぁ、俺もやってみていいか? なっす? なっす?」
「紫色の野菜になるわ! やめてくれ!」
別にナスが嫌いというわけじゃないが、レウスさんがやると永遠とやりそうで怖い。
出てくるたんびにナスナス言い続けられたら、やかましすぎる。
「パミュッス!」
あーほら、みんな真似しだした……うちのメンバーはボケが多すぎるよ! ツッコミカモン!
「みんなノリがいいなぁっす。女の子っぽい喋り方ってどんな風っす?」
『私みたいな喋り方よ!』
『ああん? あんたのは違うでしょ!』
「なるほど、そういう感じに喋ればいいのかっす……えーと、俺様についてきなさいよね。
早くしないと置いていくわよ?」
「おお、なぜか三人の真似をしたらメルザ風乙女口調が完成したぞ?」
「あら、いいじゃない。それでいきましょ」
みなでわいわいしながら歩いている時だった。上空にターゲットの反応が急に出た!
「全員下がれ! 何かこっち狙ってる! 上だ! サニダ、ここは安全じゃないのか?」
「安全のはずよ! おかしいわねっす! 上空からですってす?」
「おい、部分的にドルドー入りじゃねーか! はっ、素でつっこんじまった……ファナ、サラ、ベルディア! サニダとメルザを守っててくれ!」
「俺は高みの見物といこう。自分でなんとかするんだな」
ボトリと降ってきたのは金属のような剣?
なんだこれは。深海の重みに耐えられる生物か!? ……あれ? なんか物凄くみたことあるぞ。
「これ、秋刀魚か? いやいやいや、深海に秋刀魚って。もしかして深海の重みに耐えた個体か?
どうみてももはや武器だろこれは……うわぁ! 上から一杯降ってくる! 全員封印に戻れ!
ベルローゼさん。サニダを頼みます!」
「断る」
「はい、お断りで……っておーい、やばいですって!」
「貴様、少しぬるま湯につかりすぎだろう。このくらい何とかしろ」
「汝、甘え、よくない。ブレディー、静観」
「それじゃあっしも」
「まじかよおおおーー! メルザ、サニダ! 捕まれ! バネジャンプ!」
二人のメルザをがっちりと捕まえて、ターゲット落下予測地点から移動する。
最初に落ちてきた一匹は地面に突き刺さったままだが、体を動かして抜けようとしている。おいおい。
「なぁ、あいつ喰えるのか?」
「あら、あいつ食べられるのねっす」
「それどころじゃないって! どんどん降って来るぞ、どうなってんだ!」
「そういえば忘れてたわっす。そろそろ収穫の時期だったわねっす」
「やっぱ喰えるのか! 焼いていいか?」
「いけ、メルザ!」
「燃刃斗!」
「あ、幻術は跳ね返るわっす」
「うおおおおーーー、先に言えーー! 妖楼! マジであぶねぇ、あんなのくらったらただじゃすまん」
かキーンと跳ね返って来たメルザの燃刃斗を妖楼で躱す。
術をはじくとなると強敵だ……さて、どうするか。
「真化しろ」
「えっ!? でも意識が」
「貴様は追い込まれないと真の力が発揮できん。暴走しても今の俺なら止めてやれる。
この赤白星の力なら……な」
「え? 先生は黒星じゃ?」
「貴様……いや、何者かの意思による影響で、黒曜石の剣本来に秘められた力が継承されたようだ。
貴様にも赤星は残った。この剣に残る封印のある程度が使用できる」
「よくわかりませんが、また強くなっちゃったんですね、先生……うおお! 喋ってる余裕がない!」
慌てて降って来た秋刀魚を躱す。秋刀魚じゃないだろうけど秋刀魚だ。
数はもう十匹近くになる。数匹は空中を浮き、こちらを敵と見定めている。
ダブルメルザをかばいながら戦うのはきつい。俺の特技は水や赤星術、モンスター技。
一層というこの空間は狭い。幅が五メートルほどしかないし、上空は海だ。
空なのか海なのかよくわからないが海なんだ。
覚悟を決めよう。
「先生以外にも、全員頼む。おかしくなったら止めてくれ」
「ああ。だいじょぶだ。俺様がいるじゃねーか。にはは!」
「俺様もいるわよっす。にははっす!」
「ややこしい! えーい、 いくぞ!」
【真化!】




