間話 フーとベルドとシュウ
ルインたちがアルファルファ城に着いた頃、ミッシェ峠を抜けたシュウ、ベルド、フー・トウヤは
ロッドの町へ歩いている途中だった。
フーの身体能力の高さに、二人は驚かされるばかり。
道中ついていくのがやっとだった。
「二人とも、よくついて来てくれました。あなたたちには才能がある。
私の元で手ほどきを受けませんか?」
「いいのですか? あなたは格闘技最強として知られている。
僕としては願ったりだ」
「俺もだ。武器こそ違えど己の欠点である懐部分をどうすべきか。それを最強の人物に習えるのは大きい」
「最強と言ってもそれは闘技大会レベルでの話。ゲンドールの世界は広いです。
それに拳闘では勝てると思いますが、こと剣術であればエッジマール王子の方が上ですよ」
「エッジマールってあのジオという人物ですよね。未だに信じられないな。しかしジオというのは
どこかで聞いた名なんですよね」
「あなたのその武器。それを作ったのは彼ですよ。武変武具。彼の一族は人間と間違われますが
強固な肉体を誇るドワーフの中でも更に強固なチタンドワーフという特殊種族です」
「亜人だったのか!? 人と見わけがつかないな。あの大陸は亜人を嫌う修正があったはずだが……」
「おや、知らないのですか……キゾナは本来亜人が主として住む大陸です。
ベルディスの悪夢という災害以降、人々は亜人を恐れ、やがて殺すようになった」
「それはどういう……」
「今はもう、ベルディスはたった一人の存在しかいないんですけどね。
彼は全てのベルディスを殺し、その恐怖と絶望を一心に受けた人物。
シーザー・ベルディス。彼は元々シーザーという一人の人間だった」
「ベルディスさんが人間? 信じられない……どう見てもウェアウルフだ」
「本人は決して語らないでしょう……これは歴史に関わる話。
キゾナ大陸には昔から多くの神々が祀られていました。
人々は神を信仰し、供え物を送る。神々は人々へ安寧をもたらし、大陸は平穏でした……」
「その話は知っている。有名な話だ。嫉妬した神と滅ぼされた都市……エデン」
「御存知でしたか。それは神話などではない。実際に起こった話をおとぎ話にしたものです。
おっと、町についてしまいましたね。続きは修行の時にでもするとしましょう」
「番兵がいない。どう考えてもおかしいぞ!」
「すでに敵が押し寄せて……これはよくない状態です。急ぎましょう! 私は先に行く!」
「フーさん? ……もう行ってしまった。何という突撃っぷりなんだ」
「確かに一直線なまでに正義を通すタイプだね。少し妹にも似てるかな」
「グウーオオオ」
「アンデッド二匹! やるぞ、シュウ殿!」
「ああ。右は俺がもらう!」
シュウとベルドは各々で武器を構えると、アンデッドに対峙する。
シュウは二刀で左の骨型アンデッドへ左回りに切りかかる。アンデッドが所有する槍を
片方の剣で受け流し、鎮めの一振り切り伏せた。斬られたアンデッドは浄化され消滅する。
「いい刀だな。 燃臥斗! くっ、一撃で倒せないか。燃臥槍」
ベルドは燃臥斗にうまく槍の投擲を合わせてアンデッドを貫いた。
やがて燃え尽き二体のアンデッドを退ける事に成功。一体どれほど町にアンデッドがいるのか。
「母上が心配だ……応援に来たつもりかもしれないが、この状態ではかえって危険だ」
「ベルドのご両親はあの死流七支だろう? かなりの実力者なのでは?」
「いや、僕の母は本来治癒術と泳ぎが得意……かな。気がかりなのは父上だ。なぜ母上と一緒に
行動しないんだ……む、シュウ殿。すまない、先に行く! 右のアンデッドを頼む!」
「わかった! 倒したら直ぐ向かう!」
ベルドは兄弟を見つけ、急ぎその場所へ向かう。
スティッキースティッキーの店前で、ビスタとブルネイが術でアンデッド相手に応戦していた。
数が多く、ジリ貧。フーは別の場所で戦っている。
「重空槍!」
空から斜めに槍をおもいきり突き出し、突進するベルド。アンデッド一匹を突き刺し、刺さった槍を
引き抜く勢いでビスタとブルネイの前に降り立った。
「兄上! どうやってここまで! ベルディアは?」
「妹は男にご執心でね。別行動さ」
「姉上が男!? 信じられません。ボルドが聞いたら崩れ落ちるぞ……」
「それより、母上は? なぜ父上と別行動を? それにボルドも見当たらない。一体……」
「それが……父上が忽然と姿を消してしまったのです。ボルドが怪我を負ったので、母上が治癒を」
「そうか。二人ともよく頑張ったな。ここからは俺が……いや、俺たちが守る。
母上の元へ行ってくれ」
「兄上、我々も!」
「ビスタ、ブルネイ。術を使いすぎただろう。これ以降は武人の出番だ。
たまには長男を頼ってもいいと思わないか?」
「……はい。まだまだ未熟ですみません。兄上はまた、強くなられたのですね」
「お前たちも十分強くなったのだろう。まだまだ負けるわけにはいかないが……な! 連牙槍」
目の前に迫るアンデッドを、一気に押し返す。そして後ろからシュウが切り伏せて消滅させた。
「済まない、少し時間がかかった。君たちが弟か? 後は俺とベルド……いや、俺たちより
もっと暴れてるあの人に任せておけ」
シュウが指をさす方……上空を見ると、一人の男が暴れまわっていた。
「盛者必衰」
でかい何かを辺り一面にぶつけまわっている格闘家。
アンデッドはことごとくつぶされ、消滅していく。
「あの方は一体……」
「フー・トウヤ。最強の格闘家だ。済まない、少しだけ母上に会ってくる」
建物の中に入ると、ボルドがボロボロの服で横たわっていた。既に治療を受けたらしく、傷はふさがっている。
「母上、お久しぶりです。危険を冒してまでこちらに来た理由は……」
「ベルド! バルドスが……消えてしまったの。シーブルー大陸で活発におかしな事が起こってるのよ。
もう、あの大陸に住んではいられなくなってしまった。けれどここ、トリノポートも
酷い状態だったのね。もう安心して住める場所は、ないのかしら……」
「母上。この大陸に安全な場所はあります。だがそこへは許可がないと入れない。
許可をもらえるまで私とシュウと共に行動してもらえませんか? しばらくは
フー・トウヤと行動を共にする予定です」
「フーですって? 彼がここに?」
「ええ。外で暴れまわっていますよ。彼がいればこの町は救われるでしょう」
「わかったわ。アンデッド化した住民は一部だけど救えるかもしれない。
ベルディアは一緒じゃないの? 顔がみたかったのだけれど」
「妹は恋の真っ最中でね。ライバルが多い戦いだが、勝ち負けなく全員受け入れる器くらい
持ってるやつだろうな……あいつは」
「まぁ。それは会ってみたいものね……あなたを見ていたら元気が出てきたわ。
立派になったわね。バルドスを見ているみたいよ……うぅ……」
「母上! 父上の強さをお忘れですか? 消えたといっても死んだわけではないはず。
泣かずに笑っていればそのうちひょっこり帰ってきますよ」
「……そうね。そうするわ。ここへきてよかった。まだ小さいバーニーも安心できるわ」
「ああ。僕が必ず全員を守るよ。では、行ってくる!」
こうして母メディル、兄弟たちと合流したベルドは、ロッドの町を救い、フーと行動を共にする。
二人の修行は始まったばかりだった。




