第二百四十七話 怖いもの見たさ
本日分、少し早めにアップしておきます。
ルインが先行して三夜の町に向かった頃、イビンはミドーに乗って三夜の町付近まで
辿り着いた。
まだまだ怖がりが抜けないイビン。町の木陰でミドーをしまい、
恐る恐る木から木へと移動するイビン。当然丸見えである。
「どど、どうしよう。勢いよくついてきちゃったけど、怖いよぉ……」
まもなく三夜の町。上空には無数の火の手が上がり、いくつもの奇声が聞こえてくる。
尻込みをしている場合じゃない。町の人を助けないと……でも……と思っていると、兵士が
一人外へ出てきた。
「おかしいな。そろそろ来てもいいはずなんだが……どこかでやられちまったのか?」
「あ、あのー」
「ん? なんだおめえは。今危険な状態だぞ! すぐ避難しな!」
「ぼ、僕の仲間が中に……」
「あん? 蛇に乗った兄ちゃんって聞いてたけどおめえさんが?」
「ミドーは今しまってあるんだ。ミドーを呼ぶね」
青銀蛇リングからミドーが移動携帯で登場した。驚きのあまり腰を抜かす兵士。
「なんだこいつは? とんでもない術を持ってるな兄ちゃん」
「これは術じゃなくて、友達から貸してもらってるんだ。僕の大事な物だよ!」
「そうか。そいつ何人くらい乗れるんだ? これから大量に獣人や亜人が来るはずだ。
大人は走らせる。出来る限り子供を優先して欲しい」
「わ、わかった! 大人の人たちは大丈夫なの?」
「全然大丈夫なんかじゃねえ。だが、ガキの命以上に優先するものなんて、兵士の俺には
ねえんだよ! どっちも同じ命だが、大人はまだ助かる可能性がある。
ガキは放っておけば死ぬだけだろうが」
「……うん、ぼぼ、僕が大人の人を頑張って先導するよ。この子、命令すれば
走って目的地まで行ってくれるから」
「そうか。兄ちゃん怖がってるように見えて、勇気あるじゃねえか。気に入ったぜ……早速来たか」
「も、もう? 何人くらい?」
「……ガキ十人に大人三人だ。くそ、ガキは怪我してる」
「みんな急いで! 怪我治す薬も預かってるから!」
ルインたちが手に入れた幻薬を事前に預かったイビン。だがそこまで沢山あるわけではない。
貴重な幻薬だが、せっちゃんからも託された。以前ツケの肩代わりに買い取ったらしいが
三夜の町に向かう前にお願いされたのだ。せっちゃんは怖いけどいい骨だと思ったイビン。
「怖いよー、熱いよー」
「お父さんが、お父さんがまだ中に……」
「もう大丈夫だよ。このたくましいミドーが君たちを守ってくれるから。さぁ乗って」
「蛇!? 怖いよー」
「シュルー」
「ミドーはとっても強くていい子なんだ! 平気さ! ほら捕まって……ミドー、お願いだよ。
この子たちを泉の前まで運んでおくれ。運び終わったら戻ってこれるかい?」
「シュルー」
するすると動きだすミドー。子供十人を乗せて動き出す。
「よかった。子供たちだけでも無事に向かってくれて」
「ん? あれはなんだ?」
ジャンカの森の少し開けた部分に小さな飛翔船が下りてくる。
「おいおいイビン。俺たちを置いていく事はないだろう」
「てめぇ! 一人だけいい恰好してるんじゃねえぞコラ! 俺のパシリが
何も言う前からパシってんじゃねぇ!」
「ひぃー! 一番怖い人が来たよぅ!」
「おいイビン。次に来た子供たちは俺たちが見て乗せていく。
お前さんは大人たちを泉まで誘導しな」
「わ、わかったよハーヴァル。セフィアさんもお願い!」
「様だろうが! 忘れたってのか? 仕方ねえ。怪我したやつは回復してやるから
感謝しやがれ!」
「うお、なんだこのおっかねえ姉ちゃんは。でも救援は助かるぜ」
「ちっ こっちの方にも常闇のカイナが来てやがる。なぜだ……ここには大量の結界と
人族がそうは踏み入れられない工夫がされてるってのに」
「え? でも妖魔は入れるんじゃないの?」
「そうか! 内部をかき乱したのは例のベルータスってやつじゃないのか?」
「でも凄い妖魔って聞いたよ? そんなのが来たら町ごと壊しちゃうんじゃない?」
「おいてめぇら! こっちの大人たちの治療は終わったぞ! さっさとつれてけ!」
「た、助かった。ありがとう……急に襲われて、何人も犠牲になった……酷い惨状だ」
「い、急いで泉まで行こう。こっちだよ、ついてきて!」
イビンは体力こそないが、数十人にもなった大人を連れてジャンカの森を走る。
道中モンスターに襲われそうになったが、大人たちには燃斗などの幻術を使えるものもおり、時間を
かけて進む途中戻って来たミドーと合流して、再度泉を目指した。
イビンの戦いはまだまだ始まったばかりだ。多くの住民を逃がすために。




