第二百三十八話 久しぶりに術を見てもらう
青銀スカートの衣装を身に宿した状態を解除し、術の練習も終えた俺たちは、妖魔国で
以前訪れた衣服の店に行った。
知令由学園で派手にお金を使ったので、あまり買い物はしたくない。
さすがにファナたちもそこはわかっているようで、各自で買い物をしている。
ニンファは店員に色々話しているが……そのうちの一人が話しかけてきた。
「黒星のお弟子さんのルイン様ですよね? ……折り入ってお願いがあるんですけど」
「やあフォニー。どうしたの?」
「アネスタ様? いつもごひいきにありがとうございます。実はわたくし、独立を考えて
おりまして。それで妖魔の国で噂になっている例の町に出店できないかなと」
「ルーンの町へですか? 一応身元とか色々わかる人物じゃないと連れていけなくて」
「ルイン君。彼女は問題ないことを私が保障するよ。この子、こう見えてフォモルの娘さんなんだ」
「そうなんですか? それなら問題ありませんね。ただ……そうだ、ちょうどいい。試してみたかったんだ。
ルーンの町へ拡張してから、二人の許可がないとルーンの町へ来れないと思ってたんだけど。
どうも他の人の話だと出来るみたいで。買い物が済んだらついて来てくれる?」
「ええ。もし町で裁縫が必要ならわたくしに任せてください!
すごく素敵な町って聞いてますから嬉しいです!」
フォモルは息子に娘もいたのか。裁縫職人は今のところいないから、とても助かるな。
お店から引き抜いちゃっていいものなのだろうか。
――――――――――
買い物を済ませた俺たちは、泉から町へと戻る。
フォニーさんも来れているようなので、やはりどちらかの許可があればルーンの町へ
行けるようになっている。
メルザと別行動でもルーンの町に案内できるのは助かるな。
「ここには裁縫を行う商業施設もあるので、お使いください。温泉も自由に使ってくれて
構いませんよ。お客さんはまだ多くはないでしょうけど、大丈夫ですか?」
「ええ、ご心配なく。いつでもフェルス皇国に戻れますしね。いつかはベルローゼ様の
お洋服も……ああ、楽しみだわ!」
やっぱり先生のファンか……フェルス皇国だけでも凄い数のファンがいるからな、先生は。
「さて、術勉強組は解散だな。俺はベルローゼ先生に呼ばれてるから、訓練場へ行ってくる」
「私たちは封印に入って休んでるわね。ちょっと草臥れたから」
「そうね」
「そうするっしょ」
「私もあの居心地のよさにすっかり慣れたから、そうさせてもらおう」
ファナ、サラ、ベルディア、イーファが封印に入っていく……封印が完全にベッド役だ。
「ニンファも入りたいですの……」
「さすがに王女様はいれられませんて! 殺されますって!」
「僕も入ってみたいけど、怖いなぁ」
「興味はあるけどね。ただこれでも六人兄弟の長男だから、そうもいかないな」
「うふふ。その中も面白そうだね。でもラートに怒られちゃうかな」
「わしはあの町でゆっくり暮らせば十分じゃ。いい服も買えたしのぅ」
話し終えて、それぞれ別の場所へ向かった。
西エリアの訓練場へと向かう俺は、試しに二匹のペンギンを造ってみる。
「妖雪造形の術・コウテイ! アデリー!」
「ウェーイ!」
「ウェィウェーィ」
「コウテイはもしかして背中に乗れるかな……よいしょっと。おお、凄いしっかりしてる」
「ウェーイ?」
「ウェィ」
「そうだな。二匹とも、移動出来るか? 西エリアの訓練場まで頼みたいんだけど」
「ウェーイ!」
「ウェィウェーィ」
アネさんに聞いた通り、お願いしたらテケテケと走りだす。
徐々に速度があがり……ギィーンとかっとぶ速さになった!
早い! ミドー以上だ!
「ウェーーーーイ!」
「ウェィウェィーー」
「うおおおお、速い! 走るより断然速い!」
俺が乗っていないアデリーは、余裕があるのか時折一回転ジャンプしてみせる。
まるでアイススケート選手のようなアデリー。お前可愛すぎるだろう!
クルクルクルシャーーっとポーズを決めてすべるアデリー。
イカスぜ!
あっという間に訓練場の中に入る。呼び出すのに物凄く疲れるけど移動は楽だった。
「ウェーイ!」
「ウェィ」
片手を挙げて手を振る二匹。ありがとう助かったよ。俺も手を振って応じた。
先生は既に到着して待っていたようだ。お辞儀をして挨拶する。
「ほう、アネスタの造形術か。見事なものだ。妖術でも秘術に分類される造形術を使えるとは」
「思いの力です! 先生!」
「ふんっ、貴様の発想には我ら妖魔国も期待している。大いにフェルドナージュ様へ貢献することだ」
「わかってます。フェルス皇国は第二の故郷みたいなものですからね」
「さて、赤星の方はどうだ。一段上にはいけたか?」
「現在使えるのは赤海星の矢です。閃きました」
「剣は出せるか?」
「いえ……針より上は小星だけですね。一度コラーダに赤星をのせようとして失敗しました」
「やってみろ。俺に向けて撃ってこい」
先生と対峙する形で身構える。
「はい…… 剣戒! 赤星の……やっぱだめか」
「……その剣が不完全というのもある。手順を変えてみろ。赤星を先に放て」
「そうか! 赤星の針! 剣戒! 一閃!」
「ダメだな。バラバラだ。それと赤星の針は卒業しろ。今は斬撃ではなく多様な形でためせ」
「そうすると手軽に使える赤星は……うーん」
「いつも通り閃いてみることだ。貴様なら何か思いつくのではないか」
「そう言われてもなぁ。最近はペンギンに夢中で……うーん。先生のように妖星雷の術とか
使えると、針よりスムーズに先制攻撃できるんですけどね」
「貴様は雷と相性が非常に悪い。変に海水などという訳の分からないものを使えるからだろう」
「俺に言われてもなぁ……海水を使用した先制術を考える方がいいのかな」
雷と海なら相反しそうではある。装備で雷斗を使用出来た時はとても便利だったんだけど。
海、海かぁ……怖いのは竜巻……台風と津波かな。
後は北極に南極とかがあって、氷が溶けてて大変だとか。
台風ならイメージはしやすいけど、やってみるか……うーん。
「妖赤海星の台風一号!」
直径一メートル位の赤い渦がクルクルと目の前で回る。
「……貴様一体何をしている?」
「こ、こんなつもりでは!」
くっ。今の実力では到底無理だった。よし、津波だ!
「妖赤海星の大津波!」
先生に向かってゆるやかな海水が押し寄せる。
「……ふざけているのか?」
「ち、違うんです。本来なら天井を埋め尽くすほどの海水がですね……」
「まだまだ妖魔としての実力が足りぬようだ。しかしイメージがあるならばいい。
術として何れは完成する」
やっぱ妖力不足なのか。先は長いな。そうだ!
奇襲になるとしたらこれくらいはできるか?
「妖赤海星の水鉄砲」
先生へ一直線に赤色の海水が凄い速さで飛んだ。
「黒星の盾」
あっさりと防がれるが、先生が避けずに盾を使うとは。奇襲として十分使える証だ。
「今のは悪くない。威力もまぁまぁだった。ひとまずこれくらいにしておこう。
事が終わったらもっと修行をつけてやるから覚悟しておけ」
「はい。ありがとうございます。新作のお菓子も考えていますから」
「……楽しみにしておく……いいか、お互い必ず生きて戻る。忘れるなよ」
「……ええ。時間がもっと欲しかったけど、状況は待ってはくれませんからね」
「そうだな。残虐のベルータス。地上で暴れた以上本来ならタルタロスが始末をつけるのだがな」
「そうなのですか? そのタルタロスって……四大妖魔の?」
「そうだ。奈落の管理を司る冥暗のタルタロス。四大妖魔とはその役割を担う、地底の
重要な妖魔を指す。そのことについてはまた今度教えてやる。今日はもう休め」
「わかりました。その時にでもまたうかがうとします。それでは」
先生にお辞儀をして訓練場を後にする。今日は色々あった。
明後日はいよいよメルザと離れて行動開始。気を引き締めねば。




